※KPIに関する詳しい解説(KGIやKSFとの違いも解説に含みます)はこちら
KPIとは、組織の目標達成度合いを定量的に表現したものです。組織が目指すゴールに到達するための成功の鍵を数値で定義したもの、と言い換えてもいいでしょう。
とはいえ、数多くのKPI指標が登場するのが企業経営の世界です。意味や使い方がよく分からない、といったKPI指標も多いのではないでしょうか。そこで今回は、KPI指標の中でも「マーケティング全般」で使われるKPI指標の意味・設定例について解説していきます。
目次
売上高
売上高とは、企業が商品やサービスを提供する対価として顧客から得た金額の合計額です。売上と呼ばれることもあります。マーケティングやセールスだけでなく、経営全般、会計においても重視される数字の一つです。
数値の取り方としては社内の内部資料(会計資料など)から確認する方法や、上場会社であればIR資料等から確認する方法などがあります。売上高は会社単位、部門単位、製品単位など、様々なレベルでチェックします。そして、予算と実績の差異や、昨年度の数値と比較するなど、分析しながら企業活動のPDCAを回していくことになります。
設定例としては「今年度の売上高の目標は、前年比150%の150億円としよう」といったように、過去の売上高を参考に○○%アップと設定することが多いでしょう。設定する際には、市場環境、競合環境、自社の経営資源といった経営環境をバランスよく考慮して設定しましょう。
売上総利益
売上総利益とは、売上高から商品やサービスを提供するためにかかる費用(原価)を引いた金額です。粗利と呼ばれることもあります。売上総利益も売上高と同様に、マーケティングやセールスだけでなく、経営全般、会計においても重視される数字の一つです。
売上総利益額(粗利)の計算方法は、以下の方法があります。
・売上高-売上原価
売上総利益率(粗利率)の計算方法は、以下の方法があります。
・粗利÷売上高
設定例としては「今年度の売上総利益の目標は、前年比120%の120億円としよう」といったように、過去の売上高を参考に○○%アップと設定することが多いでしょう。売上総利益は、人件費やその他の諸経費を負担するための原資となるため、非常に重要な指標になります。
売上総利益額(粗利)が多ければ多いほど、その企業が新たに活用できる経営資源が多くなることを示しています。また、売上総利益率(粗利率)は、限界利益率と呼ばれることもあります。
売上総利益率(粗利率、限界利益率)も多いに越したことはないですが、こちらは株式会社TKCが提供しているTKC経営指標(BAST)に業種・業態別の売上総利益率(粗利率、限界利益率)の平均値が公開されているため、そちらの数値を参考指標とし、自社のKPIを定めるのも良いと思います。
市場シェア
市場シェアとは、市場における自社の商品・サービスの占有率のことです。市場シェアは、数量ベースで示す場合と金額ベースで示す場合があります。
数値の取り方としては、リサーチ会社の資料から入手できることが多いです。業界団体などが市場シェアについてまとめた資料を出していることもあります。
計算方法としては、以下の方法があります。
・商品やサービスの数量÷市場全体の数量
・商品やサービスの売上高÷市場全体の売上高
設定例としては「○○市場において当社A商品のシェアを70%まで伸ばそう」といったように設定することが多いでしょう。市場シェアは、小売業・卸業など、規模の経済性やネットワーク効果が効きやすい業界において重視される傾向にあります。市場シェアが大きいことが、自社の競争優位性につながるからです。
顧客内シェア
顧客内シェアとは、特定の顧客の支出額に占める自社の商品やサービスの割合のことです。財布内シェア(ウォレットシェア)とも呼ばれます。
顧客内シェアは、市場シェアのように市場全体に占める割合ではなく、個々の顧客に占める割合を見ることから、個別の顧客の自社商品に対するロイヤルティを測る指標になります。一般的に、顧客内シェアが大きいほど、その顧客が自社商品に対して高いロイヤルティを持っていることを意味し、企業にとっては好ましい状態といえます。一方、顧客内シェアが低い場合には、その顧客に対する「伸びしろ」が大きいともいえます。
数値の取り方としては、顧客に直接ヒアリングする方法、上場会社であればIR資料等から確認する方法などがあります。
計算方法としては、以下の方法があります。
・顧客内の自社商品の売上÷その商品カテゴリに関する顧客の総購入額
設定例としては「A社における○○カテゴリの商品の総購入額において、当社のシェアを80%まで伸ばそう」といったように設定することが多いでしょう。顧客内シェアは、顧客の重要性を鑑みながら顧客別に設定していきます。また、顧客内シェアを単独に用いるよりも、売上高などの指標と合わせて活用することをお勧めします。
例えば、ある商品カテゴリにおけるA社における自社のシェアは50%、総購入額は100億円、伸び代は50億円だったとしましょう。B社においては、自社シェアは80%、総購入額が1億円、伸び代は2,000万円だったとします。この場合、B社の顧客内シェアを10%伸ばしても1,000万円の利益しか出ませんが、A社の顧客内シェアを1%伸ばせば、1億円の利益をもたらすことができます。
顧客内シェアを用いる際は、他の指標と併用し、売上インパクトが把握できるようにしましょう。
認知率
認知率とは、自社や自社の商品やサービスをどのくらい顧客が知っているかという割合のことです。認知率は、更に再認率(助成想起率)と再生率(純粋想起率)に分けることができます。
数値の取り方としては、アンケートによる質問によるものがほとんどです。再認率は「○○という商品を知っていますか」と聞いたり、実際の商品やその写真を見せて「この商品を知っていますか」といったよう確認します。再生率は「○○といえば、どの商品を思い出しますか」というように商品情報を提示せずに回答してもらうようにします。特に、再生率が高いと多くの顧客が商品・サービスの存在や名称を正確に認識していると言えるため、より好ましい状態といえます。
設定例としては、「再生率(純粋想起率)を半年後には○○%、1年後には○○%…」というように設定します。認知率は、商品やサービスのターゲットとする層における数値が最も重要です。また、認知率は、勝手に上がるものではありません。上げるためには相応のマーケティング支出を必要とすることを認識しておきましょう。
ただし、認知率が増えることが必ずしも売上につながるとは限りません。認知度が上がることで実際に売上につながっているかを適宜モニタリングしながら、マーケティング支出をどこまでかけるべきか、適切な判断をしなければなりません。
配荷率
配荷率とは、BtoCの商品やサービスにおいて、どのくらい店頭に並んでいるかの比率のことを示す指標です。「身近な店で買う。そこになければ他の商品(他社商品)で間に合わせることも多い」というタイプの商品については、確実に店頭に並べてもらうことが大事になります。この指標は、顧客に買ってもらうための準備ができているかを示す指標とも言えます。
計算方法としては、以下の方法があります。
・商品が置かれている店の数÷その商品が買われると思われる店の数
設定例としては「定番商品Aの配荷率が昨年は対前年よりも10%も下がった。今年はリニューアルをしっかりやって一昨年の数字を挽回しよう」といったように設定することが多いでしょう。配荷率は、マーケティング担当者やチャネル営業の担当者が特に意識します。配荷率が高いことは、店頭に並んでいる率が高い、つまりは商品力(顧客の強い支持がある)があることを示すとともに、チャネルに対しての営業をしっかり行なっていることを示しているからです。
ただし、配荷率も数字の高低だけではなく質をみる必要があります。店頭にわかりやすく置かれているのと、目立ちにくい場所に置かれているのでは意味が違いますし、申し訳程度に一個だけ置かれているのも「配荷されている」とは堂々とはいえないでしょう。メーカーが望むやり方で配荷されているかを現場も見ながら確認することが必要です。
使用経験率
使用経験率とは、自社の商品やサービスを顧客が利用したことがある比率のことです。試用経験率と表記されるケースもあります。マーケティングを成功させるためには、商品やサービスを利用してもらって良さを知ってもらい、継続して利用し続けてもらうことが大切です。使用経験率は、利用したことがある顧客の比率を測る指標です。
この指標は一般的にはアンケートで測定されます。商材の特性にもよるので、何%以上なら高いといった目安は特にありませんが、定番商品ほど高くなる傾向があります。
設定例としては「認知してくれた人の4人に1人くらいには利用して欲しいから25%程度を目指そう」といったように設定することが多いでしょう。
使用経験率は、それ単独で考えるものではなく、認知率や購買意向と合わせて調査されることや議論されることが多い数字です。例えば、使用経験率が30%という数字がアンケートから明らかになったとしても、認知率が80%の場合の使用経験率30%と、認知率が50%の場合の使用経験率30%では意味合いが変わってきます。また、購買意欲とのバランスも大切です。同じ使用経験率30%でも、その中における購入意向が90%ある場合と10%しかない場合では大きく意味合いが変わってきます。
前者であれば商品・サービスの競争力が非常に高いと推定できるので、認知率や使用経験率を高く設定し、そのための努力を行うことは理にかなっています。一方、後者であれば、商品やサービスの競争力が低いことが推定できるので、認知率や使用経験率を上げることに注力しても効果は限定されます。その前に商品やサービスの競争力や魅力を上げることにフォーカスすべきでしょう。
市場カバレッジ
市場カバレッジとは、本来ターゲットとなる潜在顧客に対してどのくらいアプローチできているかを示す数字です。例えば、あるBtoBビジネスにおいて、潜在顧客数が1,000社あるのに対し、アプローチできている数が400社だったとしたら、市場カバレッジは40%ということになります。この場合、仮にその会社の商品・サービスに競争力があったとしても、残り60%の市場は戦わずして失っているという状況だといえます。
計算方法としては、以下の方法があります。
・アプローチしている顧客数÷潜在顧客数
設定例としては「潜在顧客数が1,000社あるのに対し、市場カバレッジは40%(400社)しかないので、今年度は80%(800社)まで伸ばそう」といったように設定することが多いでしょう。市場カバレッジは、マーケティング担当者や営業担当者が特に意識します。市場カバレッジが高いということは、それだけ営業活動の機会損失が少ないことを示しているからです。配荷率と近い考え方になります。
市場カバレッジをKPIとして設定する際には、数字の高低のみならず質も確認するようにしましょう。例えば、年に一度だけ挨拶程度のメールを送っているのと、四半期に一回程度は顔を合わせて打合せしているのでは、市場カバレッジの質が違ってきます。BtoBビジネスの場合、担当者が変わると急に疎遠になるというケースもあります。そうした内容の差にも注意し、カバーの仕方もイメージした上でKPI指標の設定、運用を決める必要があります。
既存顧客維持率
既存顧客維持率とは、年単位で、昨年の顧客の中で今年も商品・サービスを利用(購入)してくれたかを示す数字です。一般的に、新規顧客を獲得するよりも既存顧客にリピートしてもらった方がマーケティングコストも少なく済みます。また、既存顧客維持率は顧客満足度とも連動する数字であり、既存顧客維持率が高いということは、顧客が満足していることを同時に示していることが多いです。
計算方法としては、以下の方法があります。
・今年度リピートした顧客数÷昨年度の顧客数
設定例としては「既存顧客維持率は昨年度並みの80%を目指す」といったように設定することが多いでしょう。
BtoBの場合、顧客名が固有名詞レベルで捕捉できるため、このKPIを比較的管理しやすくなります。一方BtoCの場合にはアンケートに頼らざるを得ないことが多く、多少の誤差が生じることもあります。ECなどネットを介すビジネスであれば、IDレベルでかなり精微なリピート状況を把握することもできるようになりました。
客単価
客単価とは、顧客が一回の購買当たりに支払う金額の平均額のことです。年間など、一定期間で考える場合もあります。BtoB向け、BtoC向けを問わず、どんなビジネスにおいても売上は客数×客単価で決まります。つまり、売上を増やすためには客数を増やすか客単価を上げることが必要になります。
計算方法としては、以下の方法があります。
・顧客の購買データ(実測データ)より平均値を計算する
・実測データが取れない場合は、売上÷顧客数で計算
設定例としては「現在の客単価は1,000円だが、競合の客単価が1,200円のようなので、当社も客単価120%アップの1,200円を目指そう」などがあります。
客単価は、購買頻度と合わせてみることも必要です。それが一定期間あたりの客単価です。一回の購買当たりの客単価が増えていたとしても、購買回数が減っているようであれば元も子もありません。これを意識したのがRFM分析です。RFM分析とは、Recency(最近の購入日)、Frequency(来店頻度)、Monetary(一回あたりの購入金額)を見ることで、顧客の状況に合わせた打ち手を考えるための分析手法です。
さいごに
以上、今回はマーケティング全般でよく使われるKPI指標について意味や設定例を解説いたしました。本記事で取り上げたKPI指標は数あるKPI指標のうちの一部分に過ぎませんが、BtoB、BtoC問わず活用できそうな、シンプルで使いやすいものを中心にご紹介いたしました。
KPIとその他の関連する用語を、わかりやすくドライブで例えるならば、
Goal:目的地
KGI:目的地までの距離と到着時刻
KFS:目的地までの通過点
KPI:各通過点までの距離と到着時刻
という関係性になります。
KPIを設定する際には、KPIを達成し続ければKGIも達成することができるという構造になっているか、などにも注意を払いながら、自社のビジネスにとって適切なKPIを設定するようにしましょう。
さいごになりますが、当社ではBtoBマーケティングの業務に役立つお役立ち資料を複数ご用意しております。マーケティングの基礎知識と実践方法を体系的にまとめたお役立ち資料などもご用意しておりますので、ご活用いただければ幸いです。