経験価値マーケティングとは?経験価値マーケティングの事例や設計のポイントについてわかりやすく解説します

「モノ消費」や「コト消費」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

「モノ消費」とは、商品を所有することや消費することを重視する消費傾向のことを指し、「コト消費」とは、商品を購入したことで得られる体験を重視する消費傾向のことを指している言葉です。

モノが足りない時代には、商品を所有しているということが利便性につながり、所有していることが価値にもつながりました。これがいわゆる「モノ消費」の傾向なります。

しかし、モノが足りている現在では、商品やサービスを購入したことで得られる体験や経験に価値を見出す消費スタイルが根付いてきました。これがいわゆる「コト消費」の傾向になります。

消費傾向が「コト消費」である昨今、体験や経験を意図的に設計してその価値を高める「経験価値マーケティング」というマーケティング手法が注目されています。

本記事では、経験価値マーケティングとは何か、ということや経験マーケティングの事例、設計のポイントについてわかりやすく解説します。

経験価値マーケティングとは

経験価値マーケティングとは、顧客が製品・サービスを購入する際の経験や体験を意図的にマネジメントすることで、顧客価値の増大を目指す手法です。

1999年にコロンビア大学のバーンド・H・シュミット教授が提唱した「実際にサービスを体験するイベントによって消費者のマインドを刺激しよう」という考え方が基となっており、商品そのものの価値だけでなく、それを実際に利用してもらうことで顧客の感性を刺激し、消費者行動を促すことを目的としています。

経験価値とは?

経験価値マーケティングについてより詳しく理解するために、そもそも、経験価値とは何かについて説明します。顧客が商品やサービスを購入する際には、以下の4つのポイントに価値を見出そうとしています。

はじめに、そもそもの欲求の欠乏を満たしたい、というニーズがあります。次に、ニーズを満たす商品やサービスの中でもより良いモノを手に入れたい、という思いを満たす結果価値があります。その後に、購入までのプロセス自体に価値を見出す経過価値があり、最後に商品やサービスを利用したことで得られる経験に価値を見出す経験価値があります。

経験価値は、商品やサービスそのものの価値とは異なり、商品やサービスを利用した経験から得られる感動や満足感など、感覚的な価値を指しています。また、機能な価値だけでなく、心理的な価値も提供することに重きが置かれている考え方です。

経験価値の5つの要素

経験価値には、5つの要素があります。

◎SENSE(感覚的価値)
一つ目の要素は、SENSE(感覚的価値)です。これは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった五感に訴えかけるものです。例えば、スーパーマーケットでの食べ物の試食や、衣服の試着などがこれにあたります。

◎FEEL(情緒的価値)
二つ目の要素は、FEEL(情緒的価値)です。斬新なアイデアや細やかなサービスなどによってブランドそのものに愛着を抱かせるなど、情緒的な部分に訴求するもの。ブランドイメージだけでなく、商品やサービス自体の品質も大切になります。

◎THINK(創造的・認知的価値)
三つ目の要素は、THINK(創造的・認知的価値)です。顧客の知性や好奇心に訴えかけるものです。そのサービスを利用したときの感動や高揚感などがそれにあたります。これを活用しているのは、実演販売やワークショップになります。

◎ACT(肉体行動、ライフスタイルに関わる価値)
四つ目の要素は、ACT(肉体行動、ライフスタイルに関わる価値)です。美容体験で実際に変化が表れるなど、ライフスタイルや肉体面で実感できるものです。食生活や時間活用によって、新しいライフスタイルを誘導するものです。

◎RELATE(準拠集団への帰属価値)
五つ目の要素は、RELATE(準拠集団への帰属価値)です。集団の中での交流や有名芸能人への共感などによって、ある集団への帰属欲求をかき立てるものです。顧客が属したいグループや文化と結びつけて商品やサービスを提供することです。著名人の広告塔がこれにあたります。

このように、経験価値には5つの要素があります。ただし、5つの経験のすべてを満たさなくても、経験価値を生み出すことはできます。自社の顧客にあった経験価値を考え、5つの経験をどのように組み合わせれば満たすことができるのかを考えましょう。

経験価値マーケティングのメリット

経験価値マーケティングは、機能な価値だけでなく利用してもらうことで心理的な価値も感じてもらい、消費者行動を促すことを目的としています。経験価値マーケティングのメリットは、大きく3つあります。

◎競合との差別化につながる
一つ目のメリットは、競合との差別化につながるということです。ニーズを満たす機能的な価値だけでは、残念ながら差別化にはつながりません。経験価値マーケティングを実施し、利用してもらうことで心理的な価値も感じてもらうことができれば、競合との差別化にもつながります。

◎LTV(ライフタイムバリュー)の向上につながる
二つ目のメリットは、LTV(ライフタイムバリュー)の向上につながるということです。利用してもらい、商品やサービスの利用体験自体に価値を感じてもらうことができれば、それは顧客が商品やサービスを使い続ける理由になります。使い続ける理由が増えれば増えるほど、競合他者へのスイッチングの可能性も減り、必然的にLTV(ライフタイムバリュー)の向上につながります。

◎ブランディングにつながる
三つ目のメリットは、ブランディングにつながるということです。商品やサービスの利用体験に価値を感じてもらうことができれば、それはブランディング(良い評判を得るための活動)につながります。利用体験が良ければ、多少時間がかかったとしても、良いブランドに育っていくでしょう。

ブランディングに関しては、別記事「ブランディングとは?ブランド、ブランディング、ブランド戦略構築の手順についてわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。

経験価値マーケティングの事例

続いて、経験価値マーケティングの事例をご紹介します。

スターバックス

一つ目の事例は、コーヒーチェーンのスターバックスです。スターバックスは、経験価値マーケティングを実践して成功している代表的な企業です。スターバックスでは、コーヒーが美味しい、職場が近いといった機能的な価値の側面だけでなく、お客さまに体感していただく情緒的な価値を感じていただくことも大切にしており、その情緒的な価値を感じる体験を「スターバックス経験」と呼んでサービスの一部に組み込んでいるそうです。

このような経験価値マーケティングの考え方により、従来型の喫茶店やコーヒーチェーンのように、コーヒーが美味しい、食後に休憩できるなどと行った、機能的な価値の側面ではスターバックスと変わらない価値を提供している競合とは違い、スターバックスに行きたい、スターバックスの商品やサービスを受けたいという指名客(ロイヤルティの高い顧客)の獲得につなげています。

クラブツーリズム

二つ目の事例は、旅行会社のクラブツーリズムです。クラブツーリズムも、経験価値マーケティングを実践して成功している企業です。クラブツーリズムでは、旅行商品の販売だけでなく、クラブツーリズムの会員同士で交流することができたり、旅行の企画や実施も行うことができる「クラブ活動」という制度を設けています。

会員限定のクラブ活動での交流を通じて、クラブ活動への帰属価値も生まれてきますし、旅行の企画を自らが行うことができ、実際に企画した旅行に参加することもできるため、創造力や好奇心を満たすことにもつながります。また、クラブの内容は会員誌で紹介されるようになっており、そこで自分と同じような趣味や興味を持った方々とつながる機会がまた増えていきます。

このような体験は、他の旅行会社ではできないクラブツーリズム独自の体験価値となり、他の旅行会社ではなくクラブツーリズムの旅行に行きたい(もしくは、自分も企画したい)という指名客の獲得につながっていきます。

本記事では、スターバックス、クラブツーリズムという経験価値マーケティングの代表的な事例をご紹介しましたが、経験価値マーケティングが活用できるのは、BtoCの領域だけではありません。

BtoBの領域でも、製造業の工作機械であればデモ機の貸し出しを行う、サブスクリプション型のITツールであれば無料トライアル用のアカウントを発行するなどして、実際にお客さまに商品やサービスの利用を体験してもらうのは経験価値マーケティングの一つです。

また、近年、カスタマーサクセスやコミュニティマーケティングという言葉が広まってきましたが、これも、経験価値マーケティングの一種といえます。

このように、経験価値マーケティングは、BtoC、BtoBを問わずに活用できる手法です。商品やサービスの機能面だけでの競合他社との差別化が難しくなっている昨今、取り入れるべき考え方であると言えるでしょう。

経験価値を設計するポイント

経験価値を設計する際のポイントについて解説します。

ブランド戦略との整合性はあるか

一つ目のポイントは、ブランド戦略との整合性はあるかということです。ブランド戦略とは、商品やサービスを通じてお客さまの体験価値を高め、良い評判を生み出していくための一連の活動のことです。事業全体のブランド戦略と経験価値は整合性が取れていないと、顧客側から見るとチグハグとした印象を抱きかねません。

前述のスターバックスでは「スターバックス経験」の提供をサービスに組み込んでいますが、スターバックスの提供する商品やサービスと全く関係のないサービスの提供はしないはずです。例えば、店舗にTVのモニターを設置する、BGMのかわりにお笑い芸人の方がやっているラジオを流す、などです。これは極端な例ですが、いくら一部の顧客にはウケの良い体験だからといっても、ブランドが約束する価値との整合性が取れていない場合、経験価値マーケティングは有効に機能しません。

独自性はあるか

二つ目のポイントは、提供する経験価値に独自性はあるかということです。経験自体に価値を感じることができたとしても、それが競合他社でも得ることのできる経験価値であるならば、その経験価値はあなたの会社の商品やサービスを選ぶ理由にはなりません。そのため、どのような経験価値を設計すれば独自性のあるものになるのか、考える必要があります。

前述のクラブツーリズムでは、クラブツーリズムでしか体験できない「クラブ体験」があることが、競合する旅行会社との差別化のポイントとなっています。BtoBにおいても、ユーザーコミュニティや既存顧客向けのセミナーを企画するなど、このような仕組みを構築しようとしている企業が見受けられます。

WOW!はあるか

三つ目のポイントは、WOW!はあるかということです。WOW!とは、期待や想像を超える経験をしたときに感じる驚きの感情のことです。経験価値を設計する際には、お客さまにこのWOW!を感じてもらえることが大切です。

WOW!を感じることができたお客さまは、

  • もう一度経験したい(リピートしたい)
  • この体験を誰かに話したい(その商品やサービスを紹介したい)
  • 他の商品やサービスも体験してみたい(関連ブランドの商品を体験したい)

といった感情を抱いてくれることでしょう。

これは、なかなか難易度の高いことかもしれませんが、体験の設計のタイミングからあらかじめ狙いに行くというのは大切なことです。お客さまが「○○、使ってみたけどすごく良かったよ。興味があったら使ってみるといいよ、紹介するよ?」と友人知人に伝えたくなるような体験を目指しましょう。

経験価値を共有する場はあるか

四つ目のポイントは、経験価値を共有する場はあるかということです。良い体験をした顧客は、それを誰かに伝えたくなりますし、同じ体験をした仲間を作りたくなるものです。そのため、経験価値を共有するような場をつくるということも大切になります。

前述のクラブツーリズムでは、会員誌などがそれにあたりますし、近年、ITツールのベンダーが主催しているようなカンファレンス、ユーザーコミュニティ、ユーザー向けのコミュニティサイト、勉強会などもそれにあたります。

こちらは、経験価値そのものがお客さまに十分に受け入れられるようになってから検討するかたちでも良いかもしれませんが、ロイヤルティを持つお客さまから直接意見を聞ける場として考えても有効だと大みます。

さいごに

本記事では、経験価値マーケティングとは何か、ということや、経験価値マーケティングの事例や設計のポイントについて解説してきました。

商品やサービスが飽和している市場が増え、機能的な側面で競合との差別化が難しくなっている商品やサービスが増えている昨今、経験価値マーケティングは、競合と差別化し、事業の成長性や収益性を確保する上でも重要な取り組みです。

また、必ずしも経験価値マーケティングに取り組んでいる企業は多いとは言えないので、まだまだ競争優位性につなげることができる可能性は高いでしょう。

この記事の内容が、お役に立てば幸いです。