SaaS市場は近年、国内外で急速に拡大を続けています。その中で投資家や経営層から特に注目を集めているのが「バーティカルSaaS」と「ホリゾンタルSaaS」という2つのモデルです。
一見すると単なる分類に思えるかもしれませんが、実際には 事業の成長戦略や資金調達の評価 に直結する重要な概念です。
たとえば、バーティカルSaaSは特定の業界に深く入り込み、解約率を低く抑えやすい一方で、市場規模の拡大には限界があります。反対にホリゾンタルSaaSは幅広い業界で活用され、スケールしやすい反面、競争環境が激しく差別化が難しいという特徴を持ちます。
本記事では、両者の違いを 定義・特徴・メリット・デメリット の観点から徹底解説し、比較表や国内外の事例を交えて整理します。さらに、スタートアップがどのフェーズでどちらを選ぶべきかを戦略的に示し、経営層の意思決定に役立つヒントを提供します。
目次
バーティカルSaaSとは?
定義
バーティカルSaaS(Vertical SaaS) とは、医療・不動産・建設・物流・教育といった特定の業界に特化したSaaSを指します。
一般的な業務システムを横展開するのではなく、その業界特有の業務プロセスや法規制に対応した機能を持つのが特徴です。
特徴
・業界特化の深さ:業務フローに最適化されているため、導入障壁が低い
・解約率が低い:顧客にとって代替が効きにくく、長期利用につながりやすい
・営業のしやすさ:業界特化型のため、ターゲティングが明確で営業効率が高い
・市場規模の制約:対象業界に限定されるため、グローバルに展開するには工夫が必要
メリット
・導入後すぐに業務改善効果を出しやすい
・業界特有のニーズに応えることで競争優位を築ける
・ユーザーからの口コミや業界内での紹介で拡散しやすい
デメリット
・市場規模が限られるため、スケーラビリティに制約がある
・特定業界の景気や規制変化の影響を強く受ける
・機能の横展開が難しく、新しい市場参入がハードルとなる
事例(国内外)
・建設業界向け:施工管理SaaS
・医療業界向け:電子カルテ・診療予約SaaS
・不動産業界向け:賃貸管理クラウド
・物流業界向け:配送管理システム
バーティカルSaaSは「特定業界の業務効率化に深く貢献できる反面、成長余地の見極めが重要」なモデルです。スタートアップにとっては、まずニッチ市場で圧倒的シェアを取る戦略と相性が良いと言えます。
ホリゾンタルSaaSとは?
定義
ホリゾンタルSaaS(Horizontal SaaS)とは、特定の業界に限らず複数の業界で共通して利用できるSaaSを指します。
業務横断的に使えるため市場規模が大きく、グローバルに展開しやすいのが特徴です。
特徴
・汎用性の高さ:業界を問わず導入可能
・スケーラビリティ:幅広い顧客層を対象に急速に拡大できる
・競争の激しさ:参入プレイヤーが多く、差別化が難しい
・標準化の強み:共通機能を提供することでコスト競争力を持ちやすい
メリット
・市場ポテンシャルが大きく、ユニコーン企業が生まれやすい
・導入企業が増えるほどエコシステムが拡大し、ネットワーク効果が働く
・プロダクト改善や新機能追加を横展開しやすい
デメリット
・特定業界に深く入り込むのが難しく、カスタマイズ要望が多発する
・顧客解約率(チャーンレート)が高まりやすい
・ブランド構築や市場シェア拡大に大規模な投資が必要
事例(国内外)
・コミュニケーション系:Slack、Zoom、Teams
・営業支援系:Salesforce、HubSpot
・タスク管理系:Trello、Asana
・ドキュメント管理系:Dropbox、Google Workspace
ホリゾンタルSaaSは「市場拡大の可能性は大きいが、競合との差別化が成功のカギ」となるモデルです。スタートアップにとっては、世界を見据えた成長戦略を描く場合に強力な選択肢となります。
バーティカルとホリゾンタルの違い
バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSの最大の違いは、「特定業界に深く入り込むか」それとも「業界横断で広く展開するか」にあります。
それぞれの特性を理解することで、自社の事業モデルや成長戦略に最適な選択が可能になります。
比較表:Vertical SaaS vs Horizontal SaaS
| 項目 | バーティカルSaaS(Vertical SaaS) | ホリゾンタルSaaS(Horizontal SaaS) |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 特定の業界に特化 | 業界横断で幅広く利用可能 |
| 市場規模 | 限定的だが参入障壁が高い | 非常に大きいが競争も激しい |
| 顧客獲得 | 業界特化のため営業効率が高い | 幅広いターゲットを獲得できるが競合が多い |
| 解約率 | 低くなりやすい(代替が効きにくい) | 高くなりやすい(代替サービスが豊富) |
| 投資家の評価 | 安定収益・業界特化の強みを評価 | 成長ポテンシャルの大きさを評価 |
| 導入のしやすさ | 業界ニーズに合致しやすい | 汎用性は高いが個別要望でカスタマイズ発生も |
| スケーラビリティ | ニッチで強いが拡大余地に制限 | グローバル規模での急成長が可能 |
選択の考え方
・短期的に導入実績を積みたい場合 → バーティカルSaaSが有効
・グローバル市場を狙う場合 → ホリゾンタルSaaSが有効
・投資家との相性
・安定したリカーリングモデルを好むVC → バーティカル寄り
・ハイリスク・ハイリターンを狙うVC → ホリゾンタル寄り
この違いを理解することは、スタートアップの事業戦略に直結します。
スタートアップはどちらを選ぶべきか?
スタートアップが Vertical SaaS(バーティカル型) と Horizontal SaaS(ホリゾンタル型) のどちらを選ぶべきかは、事業フェーズや資金調達戦略、目指す市場規模によって変わります。
資金調達の観点
・バーティカルSaaS
投資家からは「解約率が低く、安定したARR(Annual Recurring Revenue)が積み上がるモデル」として評価されやすい。特にシード〜シリーズAでは、明確なユースケースと高い顧客ロイヤルティを示せることが強みとなる。
・ホリゾンタルSaaS
成功すれば巨大市場を取れるため、シリーズB以降の大型資金調達で評価されやすい。ただし初期段階では「差別化の弱さ」や「チャーン率の高さ」がリスクとして指摘されやすい。
市場参入戦略の観点
・バーティカルSaaS
ニッチ市場でNo.1を獲得しやすい。顧客の業務に深く入り込み、口コミや業界内ネットワークを通じて拡散できる。競合が少なく、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を早期に達成しやすい。
・ホリゾンタルSaaS
市場規模は圧倒的に大きいが、競争環境も厳しい。既存大手と正面から戦うのではなく、特定機能での差別化(例:UI/UX、AI活用) や 特定地域・特定顧客層からのスモールスタート が現実的。
プロダクト戦略の観点
・バーティカルSaaS
特定業界の「痒いところに手が届く」機能を早期に実装できる。顧客との距離が近いため、継続的な改善サイクルを回しやすい。
・ホリゾンタルSaaS
プロダクトの汎用性を意識する必要があるため、初期開発コストは高くなりがち。ただし一度標準化に成功すれば、グローバル展開や大規模顧客への横展開が容易。
フェーズ別の推奨モデル
・シード〜アーリー期:
→ バーティカルSaaSでニッチ市場を押さえ、安定収益を確保
・シリーズB以降(グロース期):
→ ホリゾンタルSaaSを志向し、広い市場でスケールを目指す
スタートアップにとって重要なのは、「今のフェーズで勝ちやすい土俵を選ぶ」ことです。
ニッチ市場からの確実な立ち上げを狙うならバーティカル、グローバル展開を視野に入れるならホリゾンタルが適しています。
成功事例と失敗リスク
成功事例(国内外)
バーティカルSaaSの成功事例:
・ANDPAD(建設業界)
建設現場の施工管理に特化し、業界の非効率を解消。日本の建設業界はITリテラシーが低いと言われていたが、現場で使いやすいUIと機能を提供することで急速に普及。
・Veeva Systems(製薬業界/米国)
製薬・ライフサイエンス業界に特化したCRMを提供。医薬品規制や医師との商談フローに合わせた機能により、グローバルでも強固なシェアを確立。
ホリゾンタルSaaSの成功事例:
・Salesforce(CRM)
業界横断で使えるCRMを提供し、世界的SaaS企業へ成長。クラウド活用の先駆けとして幅広い業界を取り込み、エコシステムを構築。
・Slack(コミュニケーション)
IT企業を中心に普及したが、業界を問わず導入が進み、Microsoft Teamsなどとの競争を通じて市場全体を拡大。
失敗リスクと注意点
バーティカルSaaSの失敗リスク:
・市場規模の限界:特定業界に依存しすぎると成長が頭打ちになる
・規制変更の影響:法改正や業界ルール変更でプロダクトが陳腐化する可能性
・過度なカスタマイズ:顧客要望に対応しすぎると開発リソースが分散し、スケールできなくなる
ホリゾンタルSaaSの失敗リスク:
・差別化の難しさ:競合が多く、価格競争や機能競争に陥りやすい
・チャーンレートの高さ:代替サービスが豊富なため、乗り換えが容易
・大規模投資の必要性:広告・営業・サポート体制などに多額の資金が必要
事例とリスクから学べること
・バーティカルSaaSは「小さく始めて強いポジションを築く」 ことに適している
・ホリゾンタルSaaSは「大きな市場でスケールする」 潜在力があるが、競争と投資負担が大きい
・スタートアップ経営層にとって重要なのは、自社のフェーズ・資金力・市場環境に応じてどちらのモデルを採用するか を見極めること
まとめと次のアクション
バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSは、それぞれに強みとリスクを持つビジネスモデルです。
・バーティカルSaaS:特定業界に深く入り込み、解約率が低く安定収益を得やすい。ただし市場規模に制約がある。
・ホリゾンタルSaaS:業界横断で展開でき、グローバル規模でのスケールが可能。ただし競争が激しく差別化が難しい。
スタートアップがどちらを選ぶべきかは、事業フェーズ・資金力・市場戦略によって異なります。
シード〜アーリー期では バーティカルSaaSでニッチ市場を押さえる、グロース期では ホリゾンタルSaaSで市場を拡大する といった段階的戦略が有効です。
次のアクション
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