営業力は、勉強やスポーツと同じで、基礎を学び、練習しないと習得できません。ただし、身につけることができれば、全ての仕事に通じる最強のスキルです。
その営業力の中でも、特に身に付けておきたいスキルが「ヒアリング」のスキルです。法人営業のヒアリングのフレームワークにBANT条件(BANT-CH条件)があります。BANT条件(BANT-CH条件)は、商品やサービスを受注につなげるために確認しておくべき基本項目を網羅的に確認するためのフレームワークで、営業担当者ならぜひ抑えておきたいスキルです。
本記事では、法人営業におけるヒアリングの代表的なフレームワークであるBANT条件(BANT-CH条件)について、わかりやすく解説します。
目次
BANT条件とは
BANT条件のBANTとは、Budget(予算)、Authority(決裁フロー)、Needs(ニーズ)、Timeframe(導入時期)の頭文字を示しています。法人営業においては、ヒアリングを通じてこのBANT条件を確認することで、案件の受注確度を明らかにしていきます。また、BANT条件を確認することで、案件をクロージングするために足りない要素も同時に明らかにすることができます。
BANTの「B」:Budget(予算)
BANTの「B」はBudget(予算)です。商品やサービスを購入するための予算があらかじめ組まれているかを確認することで、購入の検討度合いを判断します。
予算が組まれていない、ということであれば、実際に担当者が購入の意思を固めても、社内稟議をあげて予算を確保する、などの承認フローが発生する可能性があります。また、金額によっては、追加予算が取れない可能性もあります。
その点、購入するための予算があらかじめ組まれているようであれば、商談から成約につながりやすくなります。また、お客さまの予算の範囲がわかれば、比較検討している競合もその予算の範囲内のプレイヤーの可能性が高くなります。
予算は必ず確認しておきたいヒアリング項目ですが、信頼関係が築ける前に聞いてしまうと、相手に不躾な印象を与えてしまいます。場合によっては、教えていただけないかもしれません。
そのため、予算を確認する際には、ヒアリングを通じてお客さまのニーズを理解してからにしましょう。また、相手が商品やサービスに興味を持ち「いくらなの?」と聞いてこないうちに確認するのはやめましょう。尋問のようなヒアリングになってしまいます。
相手に商品やサービスに興味を持っていただき、こちらの商品やサービスの価格帯を説明した上で、その価格に対する印象(安く感じたのか、高く感じたのか)や、課題解決のためならどのくらいならお金をかけてもいいと考えているのか、など、あくまで相手側がどのように考えているのかを確認していく、というスタンスでヒアリングしましょう。
予算の聞き出し方の例としては、以下のような聞き方があります。
※信頼関係が築けている場合
「ご予算はおいくらですか?」
「これ以上かかるなら検討外だと思う値段というとどのくらいですか?」
※信頼関係が十分に構築できていない場合
「過去に、同じようなサービスをご検討されたことはありますか?」
「そのときは、どのような要件でご検討されたんですか?ご予算も決まっていたのですか?」
「ちなみに、こういうサービスに予算がつくことってあるんですか?」
BANTの「A」:Authority(決裁フロー)
BANTの「A」は決裁フローです。法人では、購入(予算の使い道)を社内に報告する必要があることから、決裁フローや決裁権限が設けられていることがほとんどです。そのため、商談を合理的に前に進めていくためには、相手の決裁フローも把握しておく必要があります。
法人営業では、商談の窓口になる担当者以外にも、利用者、決裁者(最終的な意思決定をする人物)、アドバイザー(エンジニアや専門知識を持つひと)など、多くの人が関わります。利用部門が多岐にわたる商品やサービスの商談ほど、関与する人が増える傾向にあります。
そのため、窓口となる担当者意外の利用者、決裁者を含め、意思決定までにどのようなフローを経る必要があるのか確認しておくことが大切です。実際の商談では、決裁フローに対する情報が足らなかったために対策がとれず、窓口の担当者が気に入っているにもかかわらず、利用者となるグループに反対されてしまったり、決裁者に導入すべきではないと判断されてしまうこともあります。
決裁フローに関しても、予算と同様、信頼関係が築ける前に聞いてしまうと、相手に不躾な印象を与えてしまいます。場合によっては、教えていただけないかもしれません。
商品やサービスに興味を持っていただき、できれば窓口となる担当者が購入に前向きな状態になってから、確認するようにしましょう。窓口となる担当者が購入手続きを進めるにあたり、手助けが必要であれば、可能な限り手助けを行うことも大切です。
決裁フローの聞き出し方の例としては、以下のような聞き方があります。
※信頼関係が築けている場合
「今後の流れとしては、○○さまから稟議をあげていただいて、どなたかに決済いただく流れですか?」
「稟議の起案から承認までには、どのくらい時間がかかるものなのですか?」
「社内のどなたかをご説得なさる場合、私どもの方で何かご協力させていただけることはありますか?」
※信頼関係は築けていない場合、もしくは、担当者が決裁フローを把握していない場合
「仮に具体的にご検討いただけるとなったとき、現時点で何か懸念事項になっていることはありますか?」
「具体的に検討するなら、この人の意見も確認しておきたい、と思う方はいらっしゃいますか」
「過去に同じような商品・サービスをご検討されたことはありますか?」
「ある場合、どなたが検討し、何が判断のポイントが何だったか覚えていらっしゃいますか?」
BANTの「N」:Needs(ニーズ)
BANTの「N」はニーズです。ニーズとは、お客さまにとって解決すべき目の前の課題であり、商品やサービスを購入するかどうかは、この課題を解決できるモノかどうかで判断されます。
ニーズを確認する際には、はじめにお客さまの顕在的なニーズ(お客さま自身も問題だと認識しているニーズ)から確認するようにしましょう。顕在的なニーズが見えてこなければ、解決策は提案できません。
また、ニーズと共に、その前後にある情報(問題、ゴール、背景)も確認しておきましょう。問題、ニーズ、ゴール、背景は一括りにされがちですが、似て非なる言葉です。それぞれの情報を明確に捉えようとヒアリングすることで、お客さまのニーズが何か、解像度をあげて理解することができます。
問題 :お客さまが抱えている問題点。問題があるからニーズが発生する
ニーズ :お客さまが「〜したい」「〜が欲しい」と求めている具体的な行動欲求
ゴール :お客さまが最終的に達成したいと思う状況や姿のこと
背景 :ニーズやゴールが発生した背景や現状を招いた理由・環境のこと
注意したいのは、ニーズは、お客さま側が問題ありと認識していないと発生しないということです。売る側が問題・ニーズだと考えていても、お客さま側にその認識がなければ、なにもはじまりません。このあたりの認識合わせをしないまま提案してしまうと、余計なお世話になってしまいます。
顕在的なニーズが確認できたら、潜在的なニーズについても確認してみましょう。潜在的なニーズとは、お客さま自身の意識していない本当のニーズです。
例えば、お客さまが「痩せたい」と言ったときに、ただサプリメントを進めるのではなく「なぜ痩せたいと思うのですか」と理由を聞くと、お客さまが何を求めているかが確認できます。「最近、運動不足で体が重くて」という理由なら、サプリメントよりも、運動器具を進めた方が、お客さまは欲しいという気持ちになるでしょう。
このように、お客さまの潜在的な問題・ニーズを引き出すことが出来れば、あなたもプロ営業です。
ニーズの聞き出し方の例としては、以下のような聞き方があります。
※顕在化しているニーズを確認するための質問
「現状の○○についてはどのようにお考えですか?」
「○○について、具体的にはどのような点が問題なのですか?」
「どうして、○○が問題だと気がついたのですか?」
「問題があることは、どのように証明できますか?」
※潜在的なニーズを確認するための質問
「すみません、そもそも、○○を行おうことの狙いはどんなところにあるんですか?」
「なぜ、○○したいのですか?」
「○○することで、どのような問題を解決したいのですか?」
「○○することで、どのような効果を期待していますか?」
「同じような効果が見込めそうな、△△のような方法だといかがですか?」
BANTの「T」:Timeframe(導入時期)
BANTの「T」はTimeframe(導入時期)です。Timeframe(導入時期)が決まっていないようであれば、まだ情報収集の段階で、購買プロセスの初期段階にいる可能性が高くなります。もしかすると、自社の課題やニーズすら明確になっていないかもしれません。
ヒアリングの段階で、必ず納期やいつまでに実現させたいかなどの時期を確認しておきましょう。導入時期が決まっているのであれば、当然のことながら、商談の確度は高くなります。また、導入すること自体は決まっている場合にも、納期的に間に合うかどうか見極めることが必要です。
タイミングの聞き出し方の例としては、以下のような聞き方があります。
※導入検討中の場合
「(もしやるとしたら)いつまでに○○されたいですか?」
「遅くても、いつまでにその課題を解決しなければならないかなど、お尻は決まっていますか?」
※導入すること自体は決まっている場合
「いつまでに○○の購入を決め、いつから○○を開始しようとお考えですか?」
「いつまでの納品が必要ですか?お尻は決まっていますか?」
BANT-CH条件とは
続いて、BANT-CH条件についてもご紹介します。BANT-CH条件とは、先程ご紹介したBANTに、Competitor(競合相手)、Human resources(人的資源)をプラスしたフレームワークになります。
BANT-CHは、バントチャンネルとも呼ばれます。営業力を身に付ける、ヒアリングの精度を上げる、と行った観点からもBANT-CHの全ての項目がヒアリングできた方が良いです。
BANT-CH の「C」:Competitor(競合相手)
BANTの「C」はCompetitor(競合相手)です。商談しているのが自社だけとは限りません。競合他社が、誰に、何を、どのように提案しているか、できるだけ聞き出しておきましょう。ただし、必ず教えてくれるとは限らないので、しつこくならないように注意しましょう。
競合相手の聞き出し方の例としては、以下のような聞き方があります。
※競合相手を確認するための質問
「(差し支えなければ)他にもご相談している会社様はありますか?」
「他にも検討されている商品・サービスはありますか?」
※比較ポイントを確認するための質問
「比較するポイントはどのような点になりますか?」
「もし必要でしたら、比較表を作成するお手伝いをさせていただきましょうか?」
BANT-CH の「H」:Human resources(人的資源)
BANTの「C」はHuman resources(人的資源)です。取扱商品・サービスによっては、お客さまの会社の窓口となる人、または作業分担する人が決まらないと商談が前に進まない場合があります。そうしたときには、Human resources(人的資源)について確認する必要があります。
人的資源の聞き出し方の例としては、以下のような聞き方があります。
※導入検討中の場合
「(もしやるとしたら)作業や運用のご担当者様はどなたになりますでしょうか?」
※導入すること自体は決まっている場合
「導入後の運用についてはどなたが担当されますか?」
「導入前に商品・サービスの説明会(またはデモンストレーション)を開くことも可能なのですが、いかがでしょうか?参加をご希望される方は何名かいらっしゃいそうですか?」
商談前にBANT条件(または、BANT-CH条件)を取得する方法
ここまでは、主に法人営業における商談中のヒアリングを前提にご紹介してきましたが、マーケティングやインサイドセールスなどの取組みにおける工夫次第では、商談前にBANT条件(または、BANT-CH条件)を取得することも可能です。商談前にBANT条件(または、BANT-CH条件)を取得することができれば、商談の事前準備にも焦点を絞ることができ、必然的に営業活動の効率も上がります。
以下に、商談前にBANT条件(または、BANT-CH条件)を取得する方法として代表的な取り組みをご紹介します。
フォームの設問項目を活用する
一つ目の取り組みは、フォームの設問項目を活用することです。BANT条件(または、BANT-CH条件)を確認することを目的とした設問項目を用意し、回答結果からBANT条件(または、BANT-CH条件)を判断します。
ただし、フォームの設問項目という特性上、あまり設問項目が多くなると、答えてくれる人数が減ってしまう可能性があります。具体的に検討していない状態の場合、詳しい情報を入力したり、営業をかけられたくないという心理が働くからです。
そのため、購買プロセスが商談に近い方向けの施策に連動したフォームでは、BANT条件(または、BANT-CH条件)を確認する設問項目を設けておく、また、購買プロセスが情報収集に近い方向けの施策に連動したフォームでは、お名前やメールアドレスの収集にとどめておく、など、メリハリをつけて情報収集することが大切です。
※BANT条件(または、BANT-CH条件)を確認する設問項目を設けた方がいいフォーム例
・問い合わせフォーム
・個別相談会フォーム
・商品やサービスの資料請求フォーム
・商品やサービスの検討に直結するセミナーのフォーム
※名前やメールアドレスの収集にとどめておいた方がいいフォーム例
・メルマガ登録フォーム
・ebookのダウンロードフォーム
・既存顧客向けの問い合わせフォーム
なお、セミナーのフォームなどでBANT条件(または、BANT-CH条件)を確認する場合、申し込みフォームと後述するアンケートを併用して、両方に答えていただくとBANT条件(または、BANT-CH条件)が揃うように設計するのもおすすめです。
アンケートを活用する
二つ目の取り組みは、アンケートを活用することです。アンケートを活用してBANT条件(または、BANT-CH条件)を確認する方法は、シンプルですがとても有効です。
展示会で商品やサービスの説明を聞いてくれた方にアンケートに答えていただく(もしくは、その場でヒアリングシート的に埋める)、セミナー参加者に対して終了後のアンケートに答えていただく、営業担当者やCS担当者の商談終了後に、商談に対する満足度調査のアンケートを送って答えていただく(その中にBANT-CHの確認項目も含める)など、さまざまな活用方法があります。
インサイドセールスを活用する
三つ目の取り組みは、インサイドセールスを活用することです。インサイドセールスがお客さまに架電した際に、BANT条件(または、BANT-CH条件)の情報を確認し、最新の状態にアップデートしていくという方法です。
余談ですが、私はインサイドセールスの取り組みを行う際に、インサイドセールスの成果指標は「アポ獲得数」ではなく「顧客のBANT条件(または、BANT-CH条件)のアップデート数」にした方がいいと思っています。
アポ獲得数を成果指標にしてしまうと、まだ十分に購入検討の意思がない見込み客からもアポを取ってしまう可能性が高まりますし、せっかく見込み客と会話しているにも関わらず、BANT条件(または、BANT-CH条件)の確認漏れが発生してしまったりします。
また、
- 売り込みすぎなくなる
- リストが疲弊しなくなる
- 架電のハードルが低くなる
などの副次的な効果も見込めるため、おすすめです。
コツ・留意点
続いては、BANT条件(または、BANT-CH条件)を確認する際のコツ・留意点です。
印象の良い質問方法を知る
お客さまと友好な関係を築くためには、言葉の使い方や会話の仕方も大切であるということを認識しましょう。
例えば、「どう思われますか」「どうしてでしょうか」のような言葉を使うと、お客さまは意見を求められたと感じます。人は、自分の意見に耳を傾けてくれる人に好意を持ちやすい傾向にあります。
「○○さん」「○○さま」と名前で呼びかけることも、好印象を与えることが多い傾向があります。会話の中に自然な感じに相手の名前を入れることで、相手が自分に関心を持っていると感じられ、親近感が生まれやすくなります。
また、わからないことがあれば、誤魔化さずに「知りませんでした、ぜひ教えてください」と依頼することも大切です。このような姿勢は、謙虚さを表現するとともに、相手の優越感を満足させます。また、このときに教えるものと教わるものとの関係が生まれ、友好的な人間関係が生まれやすくもなります。
仮説を準備しておく
事前に相手のことを調べ、相手のニーズや関心事に対して仮説を準備しておくことが大切です。例えば、HPやニュース情報を読めば確認できることを聞かれた場合、「この人、当社のことを何も調べてきていないな」といったように、不信感を持たれてしまう可能性があります。
相手を理解することは、全てのコミュニケーションの第一歩になるからです。そのため、営業やマーケティング、サポートやカスタマーサクセスなど、顧客とのコミュニケーションをベースとした業務において、顧客理解はとても大切になります。
調べた上で本当にわからなかったことを聞くことは、失礼にはあたりません。「御社のHPなどの公開情報は拝見しましたが、○○については情報を見つけることが出来ませんでした。実際にはどのようになっているのですか?」と言った具合で確認すれば、よく知ろうとしてくれているな、と好感を持たれるでしょう。
また、「御社のHPなどの公開情報は拝見し、○○に関する情報を見ました。そうすると、いま△△や□□についても色々とご検討されているんじゃないかな、と思ったのですが、実際のところいかがでしょうか?」と言ったように、相手を調べた上で導き出した仮説を準備しておくことで、仮説と現状の課題感の答え合わせをするような形でヒアリングを進めることが出来ます。このようなやりとりでヒアリングを進められると、顧客の課題感に対する理解が深まるだけでなく、課題解決に向けて、同じ目線で話し合うことができるようになります。
このように、仕事において相手を理解するための努力は、コミュニケーションを円滑にします。また、信頼関係の構築にもつながります。
BANT条件(または、BANT-CH条件)は、ただ聞けば教えてもらえる、というものではありません。表面的なことを確認するだけでは、商談から成約につながるまで道筋は見えてこないこともあります。事前準備を行い、仮説を準備しておくことで成立するコミュニケーションの中で、本当の理解ができると考えましょう。
顧客理解については、別記事「顧客に会う前にやっておきたい、顧客理解のための10の具体的方法」でもご紹介しております。合わせてご覧ください。
さいごに
本記事では、法人営業におけるヒアリングの代表的なフレームワークであるBANT条件(BANT-CH条件)について、解説いたしました。
BANT条件(BANT-CH条件)を確認できるスキルを身に付けることは、営業担当者の営業力強化につながります。また、BANT条件(BANT-CH条件)を確認し、管理する仕組みを取り入れることによって、組織的に営業力を高めることもできるようになります。
法人は製品・サービスの購入をロジカルに判断します。そのため、法人営業プロセスもロジカルになります。基礎を学び、法人営業プロセスをロジカルに実践すれば、誰でも営業力が身につくということを覚えておいてください。
さいごになりますが、当社ではBtoBマーケティングの業務に役立つお役立ち資料を複数ご用意しております。BANT-CH条件をスムーズにヒアリングするためのトークスクリプトなどもご用意しておりますので、ご活用いただければ幸いです。