スタートアップ企業やベンチャー企業がVCから資金調達をした、というニュースをよく耳にします。
売上を伸ばしたい、事業を成長させたいという気持ちは、スタートアップ企業やベンチャー企業に関わらず、会社経営に携わるほとんどの人が持っているものだと思います。
しかし、調達した資金を使って設備を購入する、あるいは多くの人材を雇用するということをしても、必ずしも全てのビジネスがスケールし、順調に成長していくとは限らないのが実情です。
問題になっている部分を見極めるための考え方として、ボトルネックというものがあります。ボトルネックとは何か、どのように考えるのかを見て行きましょう。
目次
ボトルネックとは
ボトルネックとは、複数の工程を経て行われる業務において、もっとも処理能力や容量が小さく、その業務全体のアウトプットを規定する部分のことです。
ボトルネックの意味
ボトルネックとは元々、ボトルの首(ネック)の部分のことです。この首の部分があることで、液体がボトルから流れ落ちる速さが規定されます。速さが規定されるため、ボトルから液体が一定期間内に流れ落ちる量も規定されることになります。
これに由来し、ビジネス用語としては制約要因の意味で使用され、ビジネスの目的を達成するために取り除く必要がある制約のことをボトルネックと呼びます。
ボトルネック分析とは
ボトルネック分析は、業務プロセスの改善や生産性の向上を図ることを目的に行われる分析方法です。
業務や製造工程、作業工程、プロセス等を洗い出し、処理能力や容量が小さく、全体のアウトプットの制約要因となっている箇所を見つけ出します。
例えば、ある製品Aを製造する際に、原材料から5つの工程を経て完成品になる場合を考えます。
単位時間あたりの生産能力(処理能力)は、工程①・②・④・⑤がそれぞれ1000個/時間、工程③のみが500個/時間だったとしましょう。この場合、完成品を生産できるスピードはどのようになるでしょうか?
工程①・②は1000個/時間の生産能力がありますが、工程③では500個/時間の生産能力しかないため、工程④・⑤には時間あたり500個しか引き継がれません。
この場合、工程④・⑤にも1000個/時間の生産能力がありますが、生産できる量は工程③から引き継がれた時間あたり500個以上にはなりません。このように全体のスピードは、工程全体の中で一番処理能力が小さい部分によって決まってしまいます。
今回の例の場合、単位時間あたり500個しか生産できない工程③がボトルネックということになります。
また、工程全体の中で、ボトルネックとなっている箇所はどこかを特定するだけでなく、ボトルネックとなっている原因を特定することも大切です。ボトルネックとなっている原因が何かによって必要な対策が異なるからです。
例えば、工程③がボトルネックとなっている原因が人手不足によるものだとすれば、人手を補填すれば解決できるかも知れません。しかし、工程③で行う処理に必要な設備に不具合が発生していることが原因だったとするならば、いくら人手を増やしても設備の不具合を解消しなければボトルネックは解消されません。
このように、ボトルネックとなっている業務を特定するだけでなく、ボトルネックが発生している原因まで特定することが大切です。
ボトルネック分析を行う際に重要なのは、ボトルネックやその原因については感覚値で判断するのではなく、きちんとしたデータ/裏付けをとって判断することです。
感覚値で判断してしまうと、ボトルネックやその原因を正しく特定できないばかりか、既に上手くいっている工程を変えてしまったりと、問題をより複雑なものにしたり、新しい問題を引き起こしてしまう可能性もあります。経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
TOC理論(制約理論)
TOC理論(制約理論)は、イスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラット博士によって考案されたマネジメント理論です。
TOC(Theory of Constraints)とは、制約条件(=ボトルネック)を表しており、工場全体の生産能力は制約条件工程の能力以上にはならないため、制約条件を中心に改善を行っていくということが必要とされています。まさに、ボトルネック分析を活用したマネジメント理論であると言えます。
TOC理論(制約理論)に関しては、ゴールドラット博士の著書である有名なビジネス書『ザ・ゴール』の中で詳しく紹介されています。
ボトルネックの見つけ方
ボトルネックの見つけ方について、3つのポイントを解説します。
業務プロセスを洗い出す
一つ目のポイントは、業務プロセスを洗い出すことです。
例えば、ボトルネック分析の例としてご紹介したような製造業の生産工程であれば、既に生産ラインにおける作業内容や業務フローが定型化されていることも多いでしょう。
しかし、製造業の生産工程のように作業内容や業務フローが定型化されているものがある一方で、まだまだ業務が定型化されておらず、可視化が実施されている割合の少ない領域も存在します。
企業におけるマーケティング活動や営業活動なども、まだまだ可視化が実施されている割合の少ない領域の一つです。
とはいえ、マーケティング活動や営業活動についても、基本的な型があることを理解していれば、業務プロセスを洗い出し、ボトルネックとなっている箇所を特定することができるようになります。
マーケティング活動の基本型については、別記事「BtoBマーケティングとは?知っておきたい5つのプロセスと成功のための3つのポイント」に詳しくまとめております。あわせてご覧ください。
営業活動の基本型については、別記事「法人営業とは?法人営業の5つの実践ステップについてわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。あわせてご覧ください。
ボトルネックとなっている業務を特定する
二つ目のポイントは、ボトルネックとなっている業務を特定することです。
ボトルネックとなっている業務を特定するためには、QCDの観点で業務の処理能力を評価することが大切です。QCDとは、Quality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期)の頭文字をとった言葉です。
モノやサービスが各市場に溢れ、何かしらの代替品が存在する現在において、お客さま視点で見たときにQCDの内一つでも満たされていないとしたら、そのこと自体がビジネスの拡大において重大なボトルネックになってしまいます。
先程と同様に、製品Aを製造する工程①、②、③、④、⑤の例でご説明します。先程と同様に、工程①・②・④・⑤がそれぞれ1000個/時間、工程③のみが500個/時間だったとしましょう。
この場合、一見するとボトルネックは工程③のみに見えます。
ただし、QCDの観点でより細かく各工程を見直した結果、工程②で生産される1000個/時間のうち、約半分の製品が必要とされているQuality(品質)を満たすことができていなかったとします。
この場合、ボトルネックは工程③だけでなく工程②にも発生していることになります。
実際の製造業の現場においては、不良品チェックを行わないケースの方が稀だと思います。しかし、Quality(品質)のチェックの必要性は製造業の製造工程だけにとどまらず、マーケティング活動や営業活動など、他の業務においても同じように必要です。
このように、お客さまの求めるQCDを満たすことを大前提とした上で、業務プロセスを洗い出す必要があり、QCDを満たしていない要素に関しては、それ自体がボトルネックになってしまうことを理解しておきましょう。
QCDについては、別記事「QCDとは何か?QCD向上による企業成長の考え方」に詳しくまとめております。あわせてご覧ください。
ボトルネックとなっている原因を特定する
三つ目のポイントは、ボトルネックとなっている原因を特定することです。
ボトルネックとなっている業務の原因を特定するためには、感覚値で判断せずに、実際に現場を確認する、あるいは実際に現場で働いている人に直接ヒアリングを行うことが大切です。
また、もしお客さまありきの業務で、お客さま側に確認してみないとボトルネックの原因が特定できないような場合、原因の特定を諦めるのではなく、インタビューやアンケートも活用し、原因を特定できるように努めましょう。
ボトルネックの発生箇所を突き止め、適切な対応策をとってボトルネックを解消すると、生産性の向上が実現できます。逆にいうと、誤った対応策によっていくら対策を講じても、全体のパフォーマンスは向上しません。
そのため、ボトルネックの原因を正確に把握することは非常に重要です。
ボトルネックの解消方法
ボトルネックとなっている業務を特定し、かつ原因まで特定することができたら、ボトルネックを解消するための対策を行います。
ボトルネックは全体のアウトプットの制約要因となっている箇所です。改善方法を決定する際にも、改善のために打てる解決策は、できるだけ洗い出した後に、最も効果的だと思われるものから着手していくことをお勧めします。
本記事では、ボトルネックを解消するための代表的な切り口を3つご紹介します。
人や設備を増強する
一つ目は、人員や設備の増強という、オペレーション改善の視点です。
先程と同様に、製品Aを製造する工程①、②、③、④、⑤の例でご説明します。他の工程に比べ、単位時間あたりの生産能力が500個/時間と低い工程③がボトルネックでした。工程③がボトルネックとなっている原因は、設備自体の処理能力による問題だったとします。
この場合の解決策としては、設備自体を生産能力が高いもの(1000個/時間)出せるものに入れ替える、あるいは、既存の設備と同じものをもう一台用意し、2台の設備で同時に作業ができるようにすることなどが考えられます。
あるいは、工程③がボトルネックとなっている原因が設備の問題ではなく、その設備を操作できる人間が一人しかおらず、その人間が働いていない時間帯には設備の稼働が止まっている事が原因だったとします。
この場合の解決策としては、他の人間にもその設備の操作方法を覚えてもらい、設備の稼働が停止している時間帯を無くすことなどが考えられます。
このように、人や設備を増強することでボトルネックを解消できることがあります。
多能工化する
二つ目は、多能工化するという、従業員一人ひとりの業務の幅自体を広げていくという視点です。
多能工とは、一人の従業員が複数の作業や業務を行うことを指します。先程と同様に製品Aを製造する工程①、②、③、④、⑤の例でご説明するのであれば、工程①を担当している従業員が、他の工程②、③、④、⑤の作業や業務もできる状態のことを指します。
従業員一人あたりが複数の業務ができる、つまり、多能工化していることで、人が足りないことがボトルネックとなっている部分の業務に回ることができ、全体の業務スピードを向上されることができます。
このように、複数の業務をこなすことが可能な人材を育て、ボトルネックとなっている業務を別の人材が速やかにこなせるように柔軟に配置転換することで、ボトルネックを解消することができます。ボトルネックではない部分に存在する、人材という経営資源を活用しているのです。
しかし、多能工化を進め過ぎることは、専門性を強化することとのトレードオフの関係にもなり得ます。多能工化を進めた方がビジネス全体として生産性が高まるのか、それとも専門性を強化した方がビジネス全体として生産性が高まるのか、このバランスを意識することが大切です。
業務自体の省力化を検討する
三つ目は、業務自体の省力化を検討するという、業務フローの見直しの視点です。
その業務自体を無くしてしまう事ができないか、あるいは、一つにまとめてしまう事ができないか、もしくは、IT技術や設備を活用して自動化できないか、などの視点で業務自体の省力化を検討していきます。
もちろん、お客さまの求めるQCDを満たすことが大前提ではありますが、業務自体を省力化、業務フローの見直しを行うことで、設備投資や人員など、経営資源における余剰をつくります。
業務フローの見直しによってボトルネック自体が解消されるのであればそれに越したことはないですが、余剰となった設備投資や人員などをボトルネックとなっている業務に投下することによってボトルネックの解消を図っていく、という方法も考えられます。
コツ・留意点
コツ・留意点です。
ボトルネック分析は、定型業務が多くて業務プロセスが明確である場合には精緻な分析が行いやすいですが、反対に非定型業務が多くて業務プロセスが不明確な場合には分析自体が難しくなります。
しかし、どのような業務にもボトルネックは発生します。
そのため、この業務は複雑だから分析できないと諦めるのではなく、複雑な業務であってもボトルネックを特定し、そして解消できるように知恵を絞っていく姿勢が大切になります。
さいごに
ビジネス上のボトルネックを発見し、解消していくという改善の取り組みを継続して行なっていくと、事業成長や売上拡大についても見込みが立ちやすくなります。投資した経営資源に見合うリターンが得られるという見込みが立ちやすくなれば、会社経営に携わる側からしても投資判断がしやすくなるでしょう。
ボトルネックの発生については、定期的にチェックすることも大切です。限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・時間)で、最大の付加価値をあげられる組織を目指していきましょう。
さいごになりますが、当社ではBtoBマーケティングの業務に役立つお役立ち資料を複数ご用意しております。マーケティングの基礎知識と実践方法を体系的にまとめたお役立ち資料などもご用意しておりますので、ご活用いただければ幸いです。