ブランディングとは?ブランド、ブランディング、ブランド戦略構築の手順についてわかりやすく解説します

ブランディングは、対象範囲がとても広い言葉です。

企業の販促活動や成長戦略において、ブランディングという言葉はよく使われます。しかし、シンボルマーク、パッケージ、デザイン、名前など、対象範囲が広すぎるので、人によってどこまでの範囲のことを言いたくて使っているのか、曖昧になりがちな言葉でもあります。

例えば、会社の後輩から「ブランディングって具体的にはどんなことですか?」と聞かれたとき、あなたはその質問に答えることができるでしょうか?

答えることができなくても大丈夫です。本記事を読んでいただければ、上記の質問に答えることができるようになるでしょう。

本記事では、ブランディングとは何かということについて、ブランド構築やブランド戦略の考え方にも触れながら、わかりやすく解説します。

ブランドとは?

ブランディングとは、ブランドの構築のための活動を意味します。そのため、ブランディングについて学ぶには、まずは「ブランド」という言葉の意味について理解しなければなりません。

ブランドの定義

まずは、ブランドとは何か、について解説します。

ブランドやブランディングという言葉は、便利に(そして曖昧に)使われていますが、実際のところ、どのように定義されているか、知っていますでしょうか?アメリカ・マーケティング協会の定義はこうです。

    個別の売り手もしくは売り手集団の財やサービスを識別させ、競合他社の財やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもののこと

また、ブランド理論の第一人者として世界的に有名なデイビッド・アーカー教授はこう言っています。

    自社商品を他メーカーから識別するためのシンボル、マーク、パッケージ、デザイン、名前

この定義を聞いて、皆さまは理解できましたでしょうか?

上記の定義は正しいのですが、これは、ブランドとは何かということを理解してこそよくわかる定義だと感じています。正直なところ、上記の定義にはじめて出会ったとき、私にはよく理解できませんでした。私がブランドについて理解できるようになったのは、スターバックス社のブランドに関する考え方を知ってからです。

先に結論を申し上げます。ブランドについては、以下のように理解してください。

    ブランド ≒ 良い評判
    ブランディング ≒ 良い評判を得るための一連の活動
    ブランド・マネジメント ≒ 良い評判の維持・管理

このように、ブランド≒良い評判、と考えてください。

ブランド論には、ブランドを関する様々な言葉が出てきますが(ブランド・コア、ブランド・パーソナリティ、ブランド・エクイティなど)ブランド≒良い評判ということを念頭に置いておくと、それぞれの概念について理解できるようになると思います。

以下は、スターバックス社に関する本「スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか」からの抜粋となります。

    ◎ブランド・マネジメントとは、評判管理である

    「ブランディング」という言葉はあいまいである。「ブランド」や「ブランディング」という言葉は、人によって、部署によって、企業によって定義づけが異なる。スターバックスのマーケティング部門は、ブランド・マネジメントを評判管理と定義づけている。

    スターバックスのマーケティング担当者たちは、社員全員の「評判」という言葉に関するイメージが同じだと理解した。定評のある人物、場所、物は、賞賛され、尊敬と信頼を集めるが、悪い評判になると、誠実さに欠け、責任逃れしていると見られる。

    同じことがブランドにも言える。強いブランドには「誠実」「責任感のある」「高潔」「共感できる」といった立派で個性あふれるイメージが湧く。一方で弱いブランドには、「口先だけ」「印象に残らない」「底が浅い」といった不名誉な形容がつきまとう。

    評判は目的を実行すれば得られるものであり、価値のあるビジネスチャンスとして利用するために単に「つくりあげる」ものではない。スターバックスブランドはスターバックスの高い理想から生まれた。それは、成長の必要条件としてというよりは、事業の副産物として生まれたようなものだった。

    そして、スターバックスブランドが生まれたように、その評判も自然に成立した。お客さまに満足してもらうために取った活動は従業員の評判を良くする助けとなり、地域との良好な関係を育てることになったので、企業に対する好意的な評判を築くことになった。

    スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか P42より

ブランド≒良い評判、ブランディング≒良い評判を得るための一連の活動なのです。

そう考えると、アメリカ・マーケティング協会の定義や、デイビッド・アーカー教授の定義に出てくる「シンボル、マーク、パッケージ、デザイン、名前」などは、良い評判の商品やサービス、もしくは企業を識別するための要素として捉えると、正にブランドの構成要素となります。

しかし、仮に、商品やサービスに悪い評判が立ってしまっている場合には、「シンボル、マーク、パッケージ、デザイン、名前」などは評判の悪い商品やサービスを見分けるための要素でしかなくなってしまいます。ブランドやブランディングという言葉がプロモーション戦略だけでは片付けられるものではないのはこのためです。

ブランドを企業の資産(ブランド・エクイティ)として見なすためには、ブランド≒良い評判というだけではなく、資産として見なせるだけの認知度も必要になります。ただし、ブランド≒良い評判という式が成り立っていない状態で認知度だけ上がっても、それは悪評となり、企業の資産とは見なせないものになってしまいます。

この考え方を、ぜひ覚えておいてください。

ブランド戦略とは

前段が長くなってしまいましたが、ブランド≒良い評判ということを説明いたしました。この前提があると、ブランド戦略についても理解していただきやすいと思います。

ブランド戦略とは、良いブランドをつくるために社外・社内とどのようなコミュニケーションを行うかを具体化したものであるといえます。

    良いブランド ≒ 良い評判 かつ 認知度が高い
    良いブランディング ≒ 良い評判 かつ 認知度が高い を両立させるための一連の活動
    ブランド戦略 ≒ そのための社外・社内とのコミュニケーション戦略を具体化したもの

となります。

商品やサービスを通じてお客さまの体験価値を高め、良い評判を生み出していく。また、その良い評判を世の中に広めていくためのメッセージやタッチポイントを設計し、認知度が高い状態をつくりあげていく。

そして、シンボル、マーク、パッケージ、デザイン、名前などの要素を通じて、他の商品やサービスとは違うもの(良い評判のある商品やサービスの証)だということを認識してもらいやすくする、といったコミュニケーション戦略を通じて、どのようなブランドとして世の中からの認知を得たいのかまとめたものが、ブランド戦略だといえます。

ブランド戦略の位置付け

続いて、企業や組織がブランド戦略をどこに位置付けるか、という点についてみていきましょう。結論から言うと、ブランド戦略は、企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)のすぐ次に置かれるべき戦略です。

企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)とは、組織が存在する目的(ミッション)、実現したい姿(ビジョン)、そのために大切にする価値観(バリュー)を定義したものです。企業理念は、事業のあり方や、商品・サービスを通じてどのような価値を世の中に提供したいのかと密接につながっています。

それを世の中にどう見せたいか、どのようにコミュニケーションしていきたいか、そのための社外・社内とのコミュニケーション戦略を具体化したものがブランド戦略ですから、企業理念の直下にきて、対外的なコミュニケーションや、社内のすべてのオペレーション、従業員の働き方なども規定していくわけです。

また、人事・事業・財務、つまりヒト・モノ・カネが揃うことで会社は成り立っているわけですが、人事戦略、事業戦略、財務戦略はそれぞれ、マーケティング戦略に沿って組み立てられ、実行されていきます。そしてブランド戦略はそれらの上位にあるわけですが、一方でブランド戦略はコミュニケーションのあり方を通じて実行されていくという側面がありますので、マーケティング部門がマーケティング戦略に基づいてマーケティングプランを立て、それを実行していく中で生まれるフィードバックは、ブランド戦略に反映されることになります。

ブランド戦略とマーケティング戦略、マーケティングプランはこのように密接に結びついています。マーケティングプランの実行に対してブランド戦略が常に影響力を持つ一方で、マーケティングプランの実行によってブランド戦略が変わっていくこともあります。よく、マーケティング部門がブランド戦略を扱っているのは、そのような理由からです。

ブランドを確立する7つのメリット

強いブランドは、より多くの収益をもたらします。ブランドを確立するメリットは、大きく7つあります。

  • ロイヤルティの高い顧客を確保できる
  • 売上のブレが少なくなり、競合に負けにくくなる
  • 高いマージンが取れる
  • 流通・小売からのサポートも手厚くなる
  • コミュニケーションの効率が上がる
  • ライセンスの可能性が生まれる
  • ブランド拡張ができる

ロイヤルティとは、直訳すると忠誠心ですが、その商品やサービスのブランドに愛着を持って、新商品が出れば自分から買いに来てくれるようなお客さまを獲得できるということです。そうすれば売上も安定し、競合との競争においても優位を得ることができます。そして、高いマージンが取れるようになります。

流通や小売店としても、無名の商品よりも、広く認知されていて、どのくらい売れるかわかっている商品を扱いたいと考えますから、サポートが手厚くなります。

また、内容や品質について詳しく説明しなくても、ブランド名をいえばお客さまがその商品のことをわかってくれているわけですから、コミュニケーションの効率も上がります。例えば、フラペチーノという商品がありますが、フラペチーノと聞けば、スターバックスで販売されているフローズン状の飲み物であることをほとんどの人が知っています。そのため、フラペチーノとは何かをわざわざ説明する必要がなくなるわけです。

それから、ライセンスの可能性も生まれます。例えば、「スターバックス ヴィア」という商品がありますが、スターバックスのコーヒーの品質は高いという認識があるから、インスタントにも応用できるわけです。

また、ブランド拡張というのも、ライセンスと似た概念です。例えば、ユニリーバのダヴというブランドは、日本での販売当初はクレンジングと洗顔フォームだけでしたが、今ではシャンプーやボディウォッシュもあります。このように、「顔を洗う」商品から、「(顔だけでなく)体全体を洗う」という商品ラインに展開していくのがブランド拡張です。

一方で、ブランドがつくれないと、価格競争に巻き込まれることになります。なぜなら、高い値段では売れないからです。そうすると価格競争をしなければならなくなってしまい、利益率は低下してしまいます。そのうちにコスト削減と効率化を迫られ、プロモーション予算を削減するようになります。すると、プロモーションができなくなり、結果として、市場シェアがますます低下していく。負のスパイラルに陥って、成長が阻害されるわけです。

市場全体で考えてみましょう。自社の成長が阻害されている間に競合が台頭し、ブランドを強めていければ、自社のシェアはどんどん小さくなっていきます。ブランドがつくれないと、市場から追い出される可能性が高まるのです。だから、ブランドをつくることが大切になるのです。

ブランディングとは?

ここからは、ブランディングについて説明します。ブランディングの定義については、前述したとおり、

    ブランディング ≒ 良い評判を得るための一連の活動

とお考えいただければ、問題ないかと思います。

ただ、ブランディングは“Branding”、つまり“- ing”とあるように、現在進行形で考えていく絶え間ないプロセスのことを指します。商品やサービス、あるいは企業の価値を現在進行形で世の中とコミュニケーションを取りながら育てていくことが大切で、一度ブランドとして認知されればそれで終わり、という訳ではありません。

ブランドは、相対評価で決まります。通用していたブランドが、同じブランドのカテゴリの中に競合他社が増えてきてしまったために、他社に評判を奪われてしまい通用しなくなってしまう、ということが現実では起こります。そのため、ブランディングを通じてアップデート思考で進化していくことが大事かな、と考えています。

ブランド・エクイティとは

ブランド論の中には、ブランド・エクイティという言葉がよく出てきます。これは、ブランドの資産価値を指す言葉です。ブランドは企業価値を左右する大きなものなので、単なる名前やロゴとしてではなく、「資産」として評価しようという考え方から出てきた呼び名です。

良い評判のブランドであっても、認知度が高くなければ企業価値を左右するほどの影響力はなく、残念ながら「資産」と評価できるものではありません。そのため、資産として評価できるだけの良い評判と認知度の高さを持っているものが、ブランド・エクイティと呼べるものになります。

このように考えると、ブランディングとは、企業価値を高めるだけのブランド・エクイティをつくるための活動であるとも言えます。逆にいうと、ブランディングは、企業価値が高められるものでない限り、やっても意味がない、また、資産と呼べるだけの認知度を得ない限り、ブランド・エクイティとは呼べるものではありません。

効果的なブランディングを行うことができているのか、また、ブランドが、ブランド・エクイティと呼べる段階まで育っているのかについては、リサーチを行わないと判断できません。

ブランド・エクイティを判断するためには、感覚で判断してはいけません。リサーチが不可欠だということを認識しておきましょう。

リサーチに関しては、別記事「マーケティングリサーチとは?実施するメリット、手法、手順について解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。

ブランド・エクイティを構成する4つの要素

続いて、ブランド・エクイティを構成する4つの要素についてご説明します。デイビッド・アーカー教授は以下の4つの要素に分解しています。

  • ブランド認知(買う選択肢に入っている)
  • 知覚品質(買う価値を感じている)
  • ブランド・ロイヤルティ(繰り返し買いたい)
  • ブランド連想(このブランドなら欲しい)

これらを測ることで、ブランド・エクイティを定量化することができます。

◎ブランド認知(買う選択肢に入っているか)
一つ目の要素は、ブランド認知(買う選択肢に入っているか)です。ブランド認知とは、「ブランド名を聞いたことがあるか」という知名度ではなく、「消費者の目に入っているか」。言ってみれば、良いモノとして知覚しているか、といったことを指します。

ブランド認知を測る場合は、商品関与度、すなわち「この商品は私に関係あるもの」だと思っている人がどれだけいるかを見ます。人が何かを買おうとするとき、頭に浮かぶ選択肢は3つ、多くても7つと言われていますが、関与度が高ければ、指輪なら指輪を買おうと思ったときに思い出してもらえて、選択肢に入れてもらえるわけです。

◎知覚品質(買う価値を感じている)
二つ目の要素は、知覚品質(買う価値を感じている)です。ブランド認知はもうあるぞ、という状態のときに、さらに深くブランドの価値について見るのが知覚品質です。知覚「品質」と言っても、必ずしも「品質が良い」というイメージを測定するものではありません。「どれを買おうかな?」と考えているときに、競合の商品ではなく、こちらの商品を買うのはなぜかという理由を調査したり、自社の商品が競合に比べてどのくらい購買されやすいかを測定したりすることを言います。具体的には、そのブランドを競合の中で何番目に思い出すかということなどを見ています。

知覚品質は、知っているだけではなく、実際に買ってもらえるかを探るものです。このスコアが高ければ、値段が競合他社より高くても買ってもらえる確率が高いので、利益率もよくなるはずです。買ってもらえるかどうか、お金に成るかどうかの境目を見る指標なので、ブランド・エクイティの中でも、最も重要な管理指標と言われています。

◎ブランド・ロイヤルティ(繰り返し買いたい)
三つ目の要素は、ブランド・ロイヤルティ(繰り返し買いたい)です。一回買ってもらっただけでは終わらずに、その後もずっとその商品を買い続けてくれるかどうかを調べるのが、ブランド・ロイヤルティです。ロイヤルティとは、忠誠度のことです。ブランド・ロイヤルティは、実際にそのブランドの商品やサービスを購入した人に満足度調査を行うなどによって調べていきます。

ブランド・ロイヤルティを調べる際には、注意が必要です。よく「あなたはこの商品に満足しましたか?」「この商品をまた買いたいですか?」といった質問をしてブランド・ロイヤルティの指標にしてしまう場合があるのですが、これでは不正確です。というのは、こういった質問だと、誰でもすぐ「イエス」と答えてしまいます。そのため、ロイヤルティをしっかり確認するためには、「必ずまた買いたいか」「また絶対に買うか」「友達にも勧めるか」と行った、より突っ込んだ質問で指標を取らないと、正確には測れないのです。

◎ブランド連想(このブランドなら欲しい)
四つ目の要素は、ブランド連想(このブランドなら欲しい)です。この指標は、そのブランドの今までと同じ商品を買うのか、ということとは異なり、そのブランドのイメージをどこまで拡げられそうかを測定します。

ブランドのイメージを拡げるための方法には、ブランド・エクステンションとライン・エクステンションがあります。ブランド・エクステンションとは、既に成功しているブランド名を利用して、新商品を新カテゴリーに投入することです。例えば、ダヴは最初、洗顔料でしたが、そこからシャンプーに進出した、といった内容です。ライン・エクステンションとは、既に成功しているブランド名を利用して、既存カテゴリーに商品を投入することを言います。例えば、ビール会社が「××ライト」や「△△プレミアム」を出すようなイメージです。

すなわち、ブランド連想とは、ブランド・エクステンションや、ライン・エクステンションにどこまで耐えられるかを見る指標のことを指します。このブランドのイメージは、ある一つの商品に限られてしまうのか、それとも、もう少し広い範疇の商品やサービスに対して対応可能なイメージを持っているのかを調べることになります。

そのブランドは資産か、負債か

ブランドは、ブランド・エクイティになってはじめてマネジメントする価値が生まれますし、投下コストに比べて生み出す利益が大きくなります。しかしそこに至るまでの、いわゆる認知度を高める過程の段階においては、利益よりもコストの方が大きく、いわば金食い虫の状態です。ブランドは、ある程度資産化するか、少なくとも投資してきた以上の価値を生み出す資源に育てることができたところで、はじめて守る価値が生まれます。

ブランドを構築するためには、時間もお金もかかります。しかし、資産と呼べるところまで育てられるものかどうか、見極めることができるかどうかが重要です。そのためには、ある程度自社のブランド・エクイティというものを測定して、正しく判断し続けていかなければなりません。そのためにも、リサーチを行うことは不可欠になります。

ただ、企業資産として活用できないレベルの知名度やイメージしか育たず、追加で投資しても十分なコスト回収が見込めないと判断されるものに関しては、見切りをつけ、埋没費用と割り切って捨て去ることも大切です。

割り切ることができず、「ここまで投資したのに…」と思うこともあるでしょう。しかし、企業資産として活用できないレベルの知名度やイメージにしか育たなければ、維持費を含めた追加費用だけで、お金を大きく溶かしかねません。そのような状態になってしまうと、資産ではなく負債になってしまいます。負債を抱えないようにするためにも、ブランドがエクイティに成るか否か、合理的に判断するための基準を設けておきましょう。

埋没費用に関しては、別記事「サンクコスト(埋没費用)とは?概要と対策について解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。

ブランド戦略構築の手順

続いては、ブランド戦略構築の手順について解説します。ブランド戦略構築については、さまざまな企業や専門家が各自の方法を主張しています。本記事では、経験価値マーケティングの大家であるバーンド・H・シュミット教授の理論を使って解説します。

ブランド・コアを決める

一つ目の手順は、ブランド・コアを決めることです。ブランド・コアとは、ブランド戦略の最も上位に位置する概念で、ブランドにおける企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)のようなものです。

これは、ブランドのエッセンス、つまり、ブランドが存在する目的(ミッション)、実現したい姿(ビジョン)、そのために大切にする価値観(バリュー)といえます。ブランド・コアの必須要件は、以下の5つとされています。

  • シンプルにコミュニケーションができる
  • シンプルに実務に展開できる
  • そのブランドの活動すべてがコアに関連付けられる
  • そのブランドの活動すべてがコアに統合されている
  • そのブランド活動に携わる人の誰もがコアを理解していなくてはならない

ブランド・コアは、その名のとおりブランドのコアとなる要素なので、通常は外部には明かされません。非常に重要な企業秘密だからです。あえてブランド戦略を公表している企業もありますが、基本的には企業秘密のため、公表している企業も、公表してもいいところだけを一部公開しているに過ぎません。

そのため、ブランド・コアの事例をご紹介することができず、申し訳ないのですが、ブランド・コアは、ブランドにおける企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)のようなものなので、ほぼ企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)とイコールになると考えています。

下記は、1998年に出版された本「スターバックス成功物語」のP185に記載されている、スターバックスのミッション・ステートメント(社訓)です。

  • 働きやすい環境を提供し、社員が互いに尊敬と尊厳を持って接する
  • 事業運営上の不可欠な要素として多様性を積極的に取り入れる
  • コーヒーの調達・焙煎・流通において、常に最高級のレベルを目指す
  • 顧客が心から満足するサービスを提供する
  • 地域社会や環境保全に積極的に貢献する
  • 将来の繁栄には利益率の工場が不可欠であることを認識する

20年以上前の書籍のため、現在のスターバックスのミッション・ステートメントが同じものであるかどうかは分かりませんが、スターバックスがどのようなブランドを目指していたのか、そのエッセンスを感じることが出来るのではないでしょうか?

シンプルにコミュニケーションができ、シンプルに実務に展開できる。また、すべての活動がそこに関連付けられて統合されていて、使う人がそれを理解しているのが、ブランド・コアになります。

ブランド・パーソナリティを明確にする

二つ目の手順は、ブランド・パーソナリティを明確にすることです。ブランド・パーソナリティとは、文字どおり、ブランドを人に例えていくことです。全ての強いブランドにはパーソナリティがあり、それは人間のパーソナリティと同じように語ることができると言われます。

例えば、先程のスターバックスの例で言えば、

  • 信頼できる
  • 本物志向
  • 仕事ができる
  • 社交的
  • 地域社会との繋がりを大切にする

などでしょうか。

ブランド・パーソナリティは、ブランド・コアよりもブランドにより具体性を持たせ、よりイメージを共有しやすくするために作られます。

ブランド・コアを拠り所とした上で、具体化のためにブランド・パーソナリティを明確にしましょう。ブランドが持つパーソナリティについて、社外、そして社内の人と認識を共有できるようになればOKです。

ブランド・ポジショニングをつくる

三つ目の手順は、ブランド・ポジショニングをつくることです。ブランド・ポジショニングとは、そのブランドが「誰に」「どのような枠組みの中で」「どのような手段を提供するか」「なぜそれを信じることができるのか」などをステートメント(文章)でまとめる形で作成されます。

作成したブランド・ポジショニングからは、そのブランドの将来にわたってのビジネスドメインが見えなくてはいけません。つまり、ブランド・ポジショニングを見た瞬間に、「なるほど、つまり、このブランドは○○なのか!」とイメージが湧いてくるものである必要があります。

ブランド戦略の実行

4つ目の手順は、ブランド戦略の実行です。ブランド・コア、ブランド・パーソナリティ、ブランド・ポジショニングを整えると、世の中の誰とどのようなコミュニケーションを取っていくべきなのか、方向性が固まります。これが、ブランド戦略であると言えます。

あとは、ブランド戦略の実行に携わる関係者が、自分たちのブランドを理解すること、そして、あらゆるタッチポイントにおいて、ブランド・コア、ブランド・パーソナリティ、ブランド・ポジショニングと一貫性が取れていることが大切です。一貫性のあるブランド戦略は、ブランドが良い評判を生み出すものであれば、ブランド・エクイティを増大させることに繋がるでしょう。

さいごに

本記事の冒頭にさせていただいた質問を覚えていますでしょうか?

「ブランディングって具体的にはどんなことですか?」

ここまで読んでいただいた皆さまであれば、この質問に答えることができるようになっていると思います。

ブランドとは、良い評判のことであり、ブランディングとは、良い評判を得るための一連の活動のことです。もっと厳密にいえば、ブランディングとは、良い評判をブランド・エクイティにまで高めるための一連の活動のことになります。

多少時間がかかったとしても、選ばれるブランドを確立させるためにしっかりと商品やサービス、世の中と向き合っていけば、良いブランドになっていくでしょう。

また、シンボルマーク、パッケージ、デザイン、名前などは、あくまでもブランドを認識するために活用する一要素に過ぎない、ということもおわかりいただけたと思います。

評判がいい人は誠実で信頼できる。
逆に評判が悪い人は、イマイチ信用できない。

ブランドもこれと同じです。
いい評判は、約束したことを実行し続けることでしかつくられないということを覚えておきましょう。

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