体験型マーケティング(エクスペリエンシャル・マーケティング)とは?|事例・メリット・経験価値との違いを解説

展示会や広告出稿だけではリードが頭打ちになり、差別化が難しい──。
多くのBtoBマーケティング担当者が直面している現実です。

そんな中で注目されているのが、顧客に“体験”してもらうことでブランドを深く理解・共感してもらう「体験型マーケティング(エクスペリエンシャル・マーケティング)」です。
実際に商品やサービスを体感することで「聞いた・見た」だけでは得られない納得感や記憶に残る印象を与えられます。SNSでの拡散や口コミによる二次効果も期待でき、BtoBでもBtoCでも成果に直結しやすい手法として導入が進んでいます。

本記事では、体験型マーケティングの定義や施策の種類、成功事例、導入メリット、失敗しないための注意点を整理。さらに、学術的に語られる「経験価値マーケティング」との違いも解説し、実務担当者が施策設計や稟議にそのまま活用できる知識を提供します。

体験型マーケティングとは?

体験型マーケティングとは、商品やサービスを顧客に「実際に体験」してもらうことで、ブランドの価値を直感的に理解・共感してもらう手法です。単なる情報提供ではなく、顧客の五感や感情に働きかける体験を通じて「自分ごと」として記憶に残すことができます。

・英語では Experiential Marketing(エクスペリエンシャル・マーケティング)と呼ばれる
・製品説明やWebサイトでは伝わりにくい「使ってみた安心感」「その場で感じたワクワク感」を届けられる
・「体感 → 共感 → 行動」 の流れを設計し、購買やSNSシェアなど具体的なアクションにつなげやすい

従来型の広告やホワイトペーパーでは「情報の理解」止まりになりがちですが、体験型マーケティングは顧客の記憶に残り、意思決定プロセス(カスタマージャーニー)の初期から購買直前まで効果を発揮します。
特にBtoB領域では、展示会やデモ体験を通じて「導入後の具体的なイメージ」を持たせることができ、稟議・意思決定の後押しにも直結するのが強みです。

注目される背景

体験型マーケティングがここ数年で注目を集めているのは、従来の広告・デジタル施策だけでは顧客の心を動かしにくくなっているからです。

広告疲れと差別化の難しさ

オンライン広告やメール配信が溢れるなか、多くの顧客は「また広告か」と感じ、目に入っても記憶に残らないことが増えています。特にBtoB領域では、競合も似たような資料や比較表を打ち出しており、「結局どこも同じに見える」問題が起きています。

SNS拡散との相性

一方で、顧客が「面白い体験」「印象に残る体験」をすると、その場で写真や動画をSNSに投稿し、自然に拡散が広がります。広告を打たなくても認知が広がるため、費用対効果の高いマーケティング施策として注目されています。

CX(顧客体験)の重要性

購買の意思決定プロセスでも、「コストや機能」だけでなく “導入後にどう感じるか” が重視されるようになりました。特にBtoBでは、展示会やデモ体験を通じて「実際に使ったときのイメージ」を持ってもらうことが、稟議や社内説得に直結します。

つまり、

・広告では響かない
・似たような情報が多すぎて差別化できない
・顧客が“体験”を基に意思決定する時代になった

この3つの背景が重なり、体験型マーケティングの重要性が一気に高まっています。

施策の種類

体験型マーケティングは、BtoCだけでなくBtoB領域でも活用可能です。ここでは代表的な施策を紹介します。

イベント・ポップアップストア

短期間で顧客と直接接点を持てる施策。

・BtoC例:化粧品ブランドがポップアップ店舗を展開し、その場で試用・SNS投稿を促進
・BtoB例:展示会で自社ソリューションの「デモ体験コーナー」を設け、体験者に即座に商談を提案

「カタログで伝わらない価値を、リアルに体験してもらう」ことで、商談化率が大きく向上します。

デジタル体験(VR/AR・オンラインイベント)

オンラインでも没入感を提供できる施策。

・VR/AR:工場の稼働状況を仮想空間で体験、オフィス什器をバーチャル配置シミュレーション
・オンラインイベント:製品を実際に操作できる「リモートデモ体験」や、参加者が質問できるハンズオンセッション

出張が難しい企業や地方の顧客にもリーチでき、営業活動の地理的制約を超えることができます。

サンプリング・試用

実際に「使ってもらう」シンプルながら効果的な施策。

・BtoC例:食品や飲料の試食・試飲キャンペーン
・BtoB例:SaaS企業が「14日間の無料トライアル」を提供し、利用データを基に商談につなげる

「試して納得」→「導入決定」 の流れを後押しします。

コミュニティ形成

ユーザー同士の交流を促進し、ブランドへの愛着を育てる施策。

・ユーザー会や導入事例共有セミナー
・SlackやオンラインコミュニティでのQ&A、事例共有

「顧客が顧客を教育する」**仕組みができ、ロイヤルユーザーの育成やアップセルの機会を生みます。

ポイント

・BtoCだけでなく BtoBに最適化できる施策が多い
・単発で終わらせず、体験→商談→導入→コミュニティ の流れを設計することで成果に直結

成功事例

体験型マーケティングは、BtoC企業の成功事例が有名ですが、BtoBでも応用可能です。ここでは国内外の代表的な事例と、BtoBへのヒントを紹介します。

国内企業の事例

◎資生堂:ポップアップストアで新ブランドを体感
新ブランドの世界観を反映した店舗を期間限定でオープン。来場者は化粧品を試しながらSNSで発信し、短期間で認知拡大とファン形成に成功。
BtoB応用のヒント:展示会で「体験ブース」を設け、自社ソリューションを手に取るように体感させる。

◎自動車メーカー:試乗体験イベント
カタログやCMでは伝わらない「乗り心地」や「静音性」を体感してもらうことで購買意欲を高める。
BtoB応用のヒント:ソフトウェアや機械の「ハンズオンデモ」や「試用プログラム」に置き換える。

海外ブランドの事例

◎ナイキ:Nike Run Clubとリアルイベントの融合
アプリを通じてランニング習慣を支援しつつ、地域ごとのリアルイベントでユーザー同士をつなぐ。オンラインとオフラインを掛け合わせ、顧客ロイヤルティを強化。
BtoB応用のヒント:顧客が集まる「ユーザーコミュニティ」と「実地研修」を組み合わせ、利用価値を実感させる。

◎コカ・コーラ:没入型ブランド体験
ARや大型イベントを活用し、ブランドの「楽しさ」を体感させる。SNSでの拡散により、認知度と好感度を同時に獲得。
BtoB応用のヒント:ARやシミュレーションツールを活用し、導入後の業務改善イメージを体験させる。

事例から学べること

・情報ではなく、体験で記憶に残すことが成果に直結する
・オフライン+デジタルの掛け合わせが効果的
・コミュニティや継続的な体験が顧客ロイヤルティを強化する

BtoBでも、展示会・無料トライアル・ユーザー会などを「体験の設計」として再構築すれば、BtoC同様に強力な成果を得られるのがポイントです。

メリット

体験型マーケティングは、単なる話題づくりではなく、売上や商談化に直結する明確なメリットがあります。

ブランドの世界観を強く印象づけられる

広告や資料では伝わらない「雰囲気」や「使用感」を、体験を通じて顧客に理解してもらえる。
結果:ブランドの差別化要因を直感的に伝えられる。

SNS拡散による認知度向上

体験は「語りたくなる」「シェアしたくなる」もの。SNS投稿や口コミによって広告費をかけずに拡散が広がる。
結果:広告費を抑えつつ、ターゲット外の潜在層にまでリーチ可能。

商談化・購買意欲の向上

「体験 → 納得 → 導入」の流れを作れるため、展示会やトライアル体験は商談化率を高める。
例:製品デモを体験した顧客は、未体験顧客よりも商談化率が2倍以上になるケースも多い。

顧客データの取得とCRM施策への活用

体験参加時に得られる顧客データ(属性・興味関心・行動履歴)は、後続の営業活動やナーチャリングに活用可能。
結果:単発イベントに留まらず、中長期のリード育成が可能。

顧客ロイヤルティの強化

体験を通じて「このブランドは信頼できる」と感じた顧客は、リピーター化しやすい。ユーザーコミュニティやフォローアップ施策と組み合わせれば、アップセルやクロスセルの機会も広がる。

稟議での伝え方イメージ

「広告費100万円でリーチするよりも、同額でイベント体験を設計すれば、商談化率の高いリードを獲得できる」
「体験によって顧客が自ら情報をシェアしてくれるため、広告依存度を下げられる」

このように、認知 → 商談化 → 受注 → リピートまで一貫して効果を発揮するのが体験型マーケティングの大きな強みです。

導入時の注意点

体験型マーケティングは効果が大きい一方で、「やってみたけれど成果につながらなかった」という失敗事例も少なくありません。導入にあたっては、以下のポイントに注意する必要があります。

KPIを曖昧にしない

よくある失敗は「イベントを盛り上げること」自体が目的化してしまうことです。

・体験者数
・SNS投稿数
・リード獲得数
・商談化率

成果をどう測るかを事前に明確化し、営業や経営陣とも共有しておくことが不可欠です。

単発イベントで終わらせない

1回の体験で印象を残せても、継続的な接点がなければすぐに忘れられてしまいます。
イベント後の フォロー施策(メール、事例資料送付、営業訪問) を必ず設計し、「体験 → 商談 → 導入」までの流れを作りましょう。

コスト管理を徹底する

「派手にやったけど費用対効果が合わなかった」というのも典型的な失敗。
必要な投資額と期待リターン(商談数・受注見込み)を試算し、稟議で説明できるように準備することが重要です。

顧客目線を忘れない

主催者の「見せたいこと」ばかりを詰め込むと、参加者にとって価値が薄い体験になります。
「顧客が導入後にどんな課題を解決できるか」を体感できる設計を心がけると効果が高まります。

よくある失敗パターンまとめ

・目的が「盛り上がるイベント開催」になってしまう
・実施しても後続施策がなく、商談に結びつかない
・コストばかりかかってROIを説明できない
・顧客が欲しい体験になっていない

これらを回避することで、体験型マーケティングは「話題づくり」ではなく 商談・受注に直結する施策として機能します。

経験価値マーケティングとの違いと関係性

体験型マーケティングを正しく理解するためには、学術的に使われる「経験価値マーケティング」との違いを押さえることが重要です。

経験価値マーケティングとは?

・顧客が商品やサービスから得る「経験(エクスペリエンス)」そのものを価値と捉える考え方
・コトラーやパイン&ギルモアらが提唱し、顧客体験(CX)を経営やマーケティングの中心に据える理論
・例:単に「コーヒーを買う」のではなく、「その場の雰囲気や時間を楽しむ」という体験自体が価値になる

つまり、「体験=顧客価値」 という思想がベースにあります。

経体験型マーケティングとの違い

・経験価値マーケティング:学術的・概念的なフレームワーク(Why の部分)
・体験型マーケティング:その思想を現場で実行する具体的な施策(How の部分)

体験型マーケティングは、経験価値マーケティングを 実践の形に落とし込んだアプローチ だと言えます。

両者の関係性

・経験価値マーケティングは、経営層やマーケ責任者が「なぜ体験が重要か」を理解するために有効
・体験型マーケティングは、現場のマーケ担当者が「どう顧客に届けるか」を具体化する手段

2つをつなげることで「理念と現場が分断されないマーケティング設計」が可能になります。

・経験価値マーケティング=「理論(顧客体験を価値とする思想)」
・体験型マーケティング=「実践(体験を提供する具体的な施策)」

BtoB担当者にとっては「理論を理解しつつ、現場で成果に直結させる」ために両者をセットで捉えることが重要です。

まとめ|顧客体験から成果につなげるには

体験型マーケティングは、従来の広告や資料では伝わりにくいブランド価値を、顧客自身に「体感」してもらうことで共感と行動を引き出す強力な手法です。
本記事で解説したポイントを振り返ります。

定義:顧客の五感や感情に働きかけ、体感 → 共感 → 行動へ導くマーケティング手法
背景:広告疲れや差別化の難しさ、SNS拡散、CX重視の時代背景
施策:イベント・ポップアップ、VR/AR体験、無料トライアル、コミュニティ形成
事例:資生堂やナイキなどの成功事例は、BtoBにも応用可能
メリット:認知拡大・商談化率向上・顧客データ活用・ロイヤルティ強化
注意点:KPIの明確化、単発で終わらせない設計、コスト管理、顧客目線の体験設計
経験価値マーケティングとの関係:理論(経験価値)を実践(体験型)に落とし込むことで効果を最大化できる

つまり、体験型マーケティングは「話題作りのイベント」ではなく、商談・受注に直結するマーケティング手法なのです。

次のステップ

もしこの記事を読んで「自社でも取り入れたい」と思った方は、以下の観点から準備を始めてみてください。

①自社に合った体験設計を考える(展示会・無料トライアル・ユーザー会など)
②KPIを設定する(体験者数、商談化率、受注見込みなど)
③営業・マーケ・経営層を巻き込む(稟議を通すためのロジック整理)

さいごに

「体験型マーケティングを単発のイベントで終わらせず、商談や売上に直結させたい」

そんな方のために、当社では以下のサービスを提供しています。

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