BtoBマーケティングの担当者であれば、購買の初期段階の認知・発見から購入に至るまでのフローとリードの総数を表したファネル(漏斗)図を見たことがあるのではないでしょうか?
この図は、デマンドウォーターフォール(Demand Waterfall)と呼ばれており、マーケティング・セールスの領域で活用されるフレームワークです。
本記事では、デマンドウォーターフォールを活用する目的やメリット、デマンドウォーターフォールを構成する4つのフェーズ、そして、活用のコツ・留意点について解説します。
目次
デマンドウォーターフォールとは?
デマンドウォーターフォールとは、主にBtoBマーケティングにおいて、マーケティング部門が見込み客を獲得してから営業部門が受注するまでのリード(見込み客)の流れを構造化したフレームワークです。
アメリカのシリウスディシジョンズ(SiriusDecisions)社によって2006年に提唱されましたが、2012年、2017年にもアップデートされており、進化を続けているフレームワークでもあります。
本記事では、最も認知度が高い2012年モデルをベースに解説します。
活用する目的
デマンドウォーターフォールでは、web広告や展示会などで獲得したリード(見込み客)が、マーケティング部門、営業部門でのそれぞれの選別を経て受注に至るまでの一連の流れをファネルで表します。
そのため、自社のリード獲得から受注までのマーケティング・セールスのプロセスを可視化することや、自身の業務の理解を深めることを目的に活用されます。
また、獲得したリード(見込み客)の各フェーズへの転換率(比率)と転換量(実数)の両方に着目することができるため、最終的なアウトプット(受注)を増やすためにはどうしたらいいか、改善点を見つけ出すことを目的にも活用されます。
活用するメリット
デマンドウォーターフォールを活用するメリットは、大きく4つあります。
- マーケティング・セールスのプロセスを可視化できる
- マーケティング・セールスのプロセスの改善点を見つけることができる
- マーケティング部門と営業部門、双方の協力関係が築ける
- 受注数が予測しやすくなる
1つ目のメリットは、マーケティング・セールスのプロセスを可視化できることです。前述したとおり、デマンドウォーターフォールでは獲得したリード(見込み客)がマーケティング部門、営業部門でのそれぞれの選別を経て受注に至るまでの一連の流れをファネルで表します。
それによって、マーケティング・セールスの各プロセスを可視化することができるため、マーケティング部門は営業部門の、営業部門はマーケティング部門の行っている業務について理解を深めることができます。
2つ目のメリットは、マーケティング・セールスのプロセスの改善点を見つけることができるということです。可視化したマーケティング・セールスのプロセスから、リード(見込み客)の転換率(比率)と転換量(実数)の両方に着目することができるため、最終的なアウトプット(受注)を増やすための改善点を見つけることができます。
例えば、後述する選別基準(MQLやSQL)について明確化することによって、フォローや引き渡しの抜け漏れを防ぎ、リード(見込み客)の転換率(比率)をあげる、もしくは、現状の転換率(比率)から転換量(実数)を導き出しても、目標の受注数に届かないため、ファネルを流れるリード(見込み客)の総量自体を増やすための対策をとる、といった内容です。
3つ目のメリットは、マーケティング部門と営業部門、双方の協力関係が築ける、ということです。デマンドウォーターフォールでリードの一連の流れを管理する目的は、最終的なアウトプット(受注)を増やすためです。そのため、中間指標(MQLやSQL)を達成していても、受注まで流れて行かないようであれば意味がありません。
デマンドウォーターフォールでリードの流れを可視化することによって、マーケティング部門と営業部門でそれぞれの部門の事情を話し合いながら、中間指標(MQLやSQL)の基準を調整するなど、受注に至るまでのリードの流れの根詰まりを、協力しながら解消していくことが可能になります。
デマンドウォーターフォールの4つのフェーズ
デマンドウォーターフォールは、以下の4のフェーズで構成されます。
- Inquiry:リードを獲得する
- MQL(マーケティングクオリファイドリード):マーケティングがリード選定、営業へ引渡す
- SQL(セールスクオリファイドリード): 営業がリードを選定、商談を進める
- Close:受注する
※本記事では、最も認知度が高い2012年モデルをベースに解説します。
Inquiry
1つ目のフェーズは、Inquiryです。Inquiryは、リードを獲得するフェーズ(リードジェネレーション)です。リードの獲得方法の例としては、HPからの問い合わせ、資料請求、ダウンロード資料(ホワイトペーパー)、セミナー、展示会、DM(ダイレクトメール)、広告、テレアポなど、さまざまな方法があります。
リード獲得の方法に唯一の正解はありませんが、デマンドウォーターフォールを管理する際には、どの経路から獲得したリードが受注への転換率が高いか(費用対効果が高いか)など、傾向を分析できるようにしておくことをおすすめします。
リード獲得(リードジェネレーション)の方法に関しましては、当ブログのリードジェネレーションカテゴリに記事一覧をまとめております。合わせてご覧ください。
MQL
2つ目のフェーズは、MQL(マーケティングクオリファイドリード)です。MQLは、マーケティング部門が営業部門に引き渡した方が良いと判断し、選別した見込み客のことです。Marketing(マーケティング部門が)、Qualified(選別した)、Lead(見込み客)の頭文字を取ってMQLと呼ばれます。
選別の方法は、フォームの設問によるBANT条件(BANT-CH条件)の確認、インサイドセールスによるヒアリング、展示会やセミナー参加後のアンケート、個別相談会への誘導、MAツールのスコアリング機能の活用、など、さまざまな方法があります。
MQLは、運用上の定義が企業によって異なりますので、外部のコンサルティング会社やマーケティングツールのベンダーと情報交換をするときには、認識がズレないよう注意が必要です。
MQLに関しましては、別記事「MQL(マーケティングクオリファイドリード)とは?SQLとの違い、基準の決め方についてわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
BANT条件(BANT-CH条件)に関しましては、別記事「BANT条件(BANT-CH条件)とは?法人営業におけるヒアリングの代表的なフレームワーク」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
SQL
3つ目のフェーズは、SQL(セールスクオリファイドリード)です。SQLは、営業担当者が本格的に営業プロセスに回すリード(見込み客)を指します。Sales(営業担当者が)、Qualified(選別した)、Lead(見込み客)の頭文字を取ってSQLと呼ばれます。
SQL数は、その事業全体における商談の数に直結します。商談数が増えるということは、それだけ受注できる機会が増えることを示しています。SQLは、企業によってはMQLと同義で使っていることもありますが、既存のお客さまからの紹介から創出されたリードも含んでいます。このようなリードをSGL(セールスジェネレーテッドリード)と呼び、また、マーケティング経由のリードをSAL(セールスアクセプテッドリード)と呼び、それぞれを区別する場合もあります。
本来、MQL≒SQLとなることが望ましいとも言えます。MQL同様、マーケティング部門と営業部門でそれぞれの部門の事情を話し合ってから、合意して決めるようにしましょう。
SQLに関しましては、別記事「SQL(セールスクオリファイドリード)とは?マーケティング・セールスの用語についてわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
Close
4つ目のフェーズは、Closeです。Closeは最終的なアウトプット(受注)の数を指します。Closeのフェーズに関しては、営業部門のアプローチがメインになります。
ここまで、獲得したリードをマーケティング部門、営業部門の双方で選別して商談に至ったとはいえ、相手があなたからの提案に納得するとは限りませんし、納得したとしても、あなたから買う理由がなければ、競合他社に流れてしまうかも知れません。そのため、SQLからCloseにどのくらい転換できるかは、営業担当者の腕の見せどころになります。
Closeに関しましては、別記事「営業のクロージングとは?クロージングまでの流れと成約率を向上させるためのコツ」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
営業アプローチ全般に関しましては、別記事「法人営業とは?法人営業の5つの実践ステップについてわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
活用のコツ・留意点
デマンドウォーターフォールの活用のコツ・留意点について説明します。
フェーズ管理のための仕組みが必要
1つ目のコツ・留意点は、フェーズ管理のための仕組みが必要だということです。各フェーズを定義したとしても、実際にデマンドウォーターフォールを運用するにあたっては、マーケティングからセールスに流れていくリード(見込み客)の情報(顧客情報、アプローチ情報含む)を一元管理し、各部門がその情報にアクセスできるようにしておく必要があります。
実は、マーケティング・セールスのフェーズ管理の概念自体は、1960年代から存在していました。しかし、当時は実際にデータを一見管理し、各部門がそのデータにアクセスするための仕組みの構築が難しく、なかなか広まらなかった、という背景があります。
現在では、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(セールスフォースオートメーション)、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)の各ツールが、大規模なシステム導入を行わなくても、サブスクリプションモデルの台頭により低価格で利用できるようになっています。有効活用し、フェーズ管理のための仕組みを整えましょう。
MAに関しましては、別記事「マーケティングオートメーションとは?導入するメリットと使い方をわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
SFAに関しましては、別記事「SFAとは?導入するメリットとMA・CRMとの違いをわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
顧客管理システム全般に関しましては、別記事「顧客管理とは?顧客管理システムの種類やシステム導入時の注意点について」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
マーケティングと営業の連携が必要
2つ目のコツ・留意点は、マーケティングと営業の連携が必要だということです。デマンドウォーターフォールでは、MQL、SQLの選定方法、選定基準に唯一の正解はありません。しかし、MQL、SQL共に、マーケティング部門と営業部門の連携(コミュニケーションや認識合わせなど)が非常に大切になる指標です。
例えば、マーケティング部門が選定したMQLを、営業部門がほとんどSQLとして判断しない、といった状況に陥ってしまうと、事業の売上目標を達成するために十分な商談数が達成できない事態になりかねません。
MQL、SQLの基準は、マーケティング部門と営業部門の双方の事情を加味し合意して決めましょう。そして、合意なしには変更しないようにしましょう。
目指すのはClose数の最大化
3つ目のコツ・留意点は、目指すのはClose数の最大化だということです。デマンドウォーターフォールでは、中間指標(MQLやSQL)を達成していても、Close(受注)の目標を達成できなければ仕方ありません。マーケティング部門や営業部門で協力し合いながら、Close数の最大化を目指す必要があります。
マーケティング部門や営業部門は、数字には表れない問題を抱えている場合があります。例えば「SQLの基準に達しているリードが多いのは承知しているが、営業担当者の人数が少なく、営業部門だけではフォローの手が回らないので、MQLの基準を上げてもらって、確実に売れるところ以外はマーケティング部門でフォローしてもらいたい」といった要望が発生する可能性があります。
デマンドウォーターフォールでリードの流れを可視化し、マーケティング部門と営業部門でそれぞれの部門の事情を話し合いながら、受注に至るまでのリードの流れの根詰まりを、協力しながら解消していきましょう。
マーケティング部門と営業部門の連携に関しては、別記事「BtoBマーケティングを組織に定着させるための5つの手順」にも詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
さいごに
本記事では、デマンドウォーターフォールを活用する目的やメリット、コツや留意点についてご紹介しました。
デマンドウォーターフォールのフレームワークを活用することによって、獲得したリード(見込み客)の各フェーズへの転換率(比率)と転換量(実数)の両方に着目し、受注を増やすための施策を検討することができるようになります。ぜひ、「BtoBマーケティングの5つのプロセス」の記事と合わせてご覧ください。
さいごになりますが、当社ではBtoBマーケティングの業務に役立つお役立ち資料を複数ご用意しております。マーケティングの基礎知識と実践方法を体系的にまとめたお役立ち資料などもご用意しておりますので、ご活用いただければ幸いです。