ランチェスター戦略は、ランチェスターの法則という戦争理論をビジネスに応用することで誕生した経営戦略理論です。大きな市場シェアを占めている大企業に小さい企業(組織)が勝つための戦い方や、戦略を学ぶことができます。この記事では、ランチェスター戦略についてわかりやすく解説していきます。
目次
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略とは、第一次世界大戦時にイギリスの航空工学のエンジニアであったランチェスターが発表したランチェスターの法則と、第二次世界大戦時にコロンビア大学の数学教授であったクープマンが発表したクープマンモデル(ランチェスター戦略方程式)、それぞれの戦争理論をビジネスに応用することで誕生した経営戦略理論です。
尚、ランチェスター戦略は日本で誕生した経営戦略理論としても有名です。経営コンサルタントの田岡信夫(1927-1984)によって確立されたため、田岡式とも呼ばれます。
ランチェスター戦略では、市場シェアを判断基準にして強者(市場シェア1位)と弱者(市場シェア2位以下)を定義づけます。また、販売能力が同じであれば人数が多い方が勝ち、人数が同じであれば販売能力が高い方が勝つ、という考え方をとります。以上の前提のもと、それぞれの立場から、自社の限りある経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)を適切に振り分け、戦局を有利に運ぶための戦略が説かれています。
ランチェスター戦略の詳しい内容に入る前に、まずは、その前提となるランチェスターの法則の考え方について説明します。
ランチェスターの法則
ランチェスター戦略の基礎となったランチェスターの法則は、第一次世界大戦時にイギリスの航空工学のエンジニアであったランチェスターが発表した戦争理論です。戦いにおいて、兵隊や戦闘機や戦車などの兵力数と武器の性能が戦闘力を決定づけるというものです。ランチェスターの法則では、戦闘力を数式にモデル化し、定量的にアプローチすることを論じています。
ランチェスターの法則には、戦い方によって、二つの勝ち負けのルール(二つの法則)があります。それぞれ、ランチェスターの第一法則、ランチェスターの第二法則と呼ばれています。
第一法則
ランチェスターの第一法則は、原始的な戦い方、つまり兵士同士が一対一で戦う一騎討ち戦で、狭い範囲(局地戦)で、敵と接近して戦う(接近戦)ことを前提としています。
戦闘力=武器効率×兵力数
第一法則が適用される原始的な戦いでは、同じ兵力数なら武器効率が高いほうが勝ち、同じ武器効率なら兵力数が多いほうが勝ちます。局地戦に持ち込み、敵を上回る武器、もしくは兵力数を用意すれば、敵に勝つことができます。
第二法則
ランチェスターの第二法則は、近代的な戦いの場合に適用されます。ランチェスターの法則における近代的な戦いとは、一度に複数の敵に対して同時に攻撃を行うことのできる近代兵器(確率兵器)を使った戦い(確率戦)で、広い範囲(広域戦)で、敵と離れての戦い(遠隔戦)を前提としています。近代兵器の例としては、航空爆撃機やマシンガンなどが挙げられます。
戦闘力=武器効率×兵力数の2乗
第二法則が適用される近代的な戦いでは、第一法則が適用される原始的な戦いとは違い、戦闘力に対し、兵力数の増加が2乗で作用します。第二法則は、航空爆撃機やマシンガンなど射程距離が長い兵器を使い、双方が離れて戦ったときだけ成立します。詳しい説明は割愛しますが、2乗になる根拠は確率の法則が成立するからです。
2乗とは、10なら100、100なら10000になり、とてつもなく大きくなります。そのため、第二法則が適用される近代的な戦いでは、兵力が多い方が圧倒的に優勢に立ち、兵力の少ない方が勝つことは極めて難しくなります。
少ない兵力数での戦い方
ランチェスターの法則(第一法則、第二法則)を学ぶことで、戦争に勝つための原則を導き出すことができます。まず、兵力数については、相手よりも多い方が常に有利になります。特に、第二法則が適用される近代的な戦いでは、兵力数が多い方が圧倒的に有利です。
例えば、兵力数100名の部隊Aと兵力数80名の部隊Bが戦ったとします。武器効率が同じ場合、兵力数が多い方が有利です。
では、兵力数が少ない部隊Bが勝つためには、どうすれば良いでしょうか?兵力数が少ない場合、第二法則が適用される近代的な戦い(確率戦・広域戦・遠隔戦)では相手に歯が立ちません。ただし、第一法則が適用される原始的な戦い(一騎討ち戦、局地戦、接近戦)であれば、武器効率を兵力数の比率以上に高めれば勝つことができます。
また、仮に武器効率に差をつけることが難しい場合でも、局地戦に持ち込み、その戦場に兵力を集中させれば、その戦場においては相手より兵力数を多くすることができ、各個撃破していくことができます。
そのため、少ない兵力数であっても、
- 武器効率を兵力比以上に高める
- 特定の戦場に兵力を集中させ、各個撃破する
といった状況に持ち込むことができれば、相手に勝つことができるようになります。
ランチェスター法則を応用した経営戦略理論
ランチェスター戦略とは、ランチェスターの法則を応用した経営戦略理論です。ランチェスターの法則では、兵力数が多い方が常に有利ではあるものの、戦い方次第では、少ない兵力数でも相手に勝つことができるということを確認しました。この考え方を、経営戦略や営業戦略に応用していきます。
ランチェスター戦略では、市場シェアを判断基準にして弱者と強者を定義しています。ランチェスター戦略における強者とは市場シェア1位企業であり、弱者とは2位以下のすべての企業を指します。
尚、ランチェスター戦略の弱者と強者の定義を理解する際には、市場シェアと企業の経営規模の大小を混同しないように注意してください。企業規模が小さくても、市場シェアが1位であれば強者、それ以外は弱者です。この判断は、特定の商品、地域、販路、顧客層、顧客といった様々な切り口ごとに行いましょう。
例えば、特定の商品Aは、全国的に見るとシェアが2位以下(弱者)だったとします。しかし、特定の地域に限ってみれば市場シェアが1位(強者)だった、といったように、切り口によって弱者か強者かの判断が分かれ、とるべき戦略も変わって来るからです。
弱者の戦略
ランチェスター戦略における弱者の戦略とは、マイケル・ポーターの3つの基本戦略で言うところの、差別化戦略と集中戦略を指します。セグメンテーション、ターゲティングを行って戦うべき市場を決め、その市場においての武器効率(独自性、優位性)を高め、兵力数(経営資源)を重点的に配分することにより、局所的ナンバーワン(またはオンリーワン)のポジションを目指します。
スタートアップのための戦略で「初期は本当にニッチなターゲットに絞り込むべき」「ニッチなターゲットの中でPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を目指せ」という考え方がありますが、この考え方もランチェスターの法則の第一法則から導き出されたランチェスター戦略であると言えます。
弱者の戦略におけるセグメンテーションは、その分野で自社が完全に勝つくらいまで小さくするか、大企業が目もくれないような小さなニッチ市場に絞り込むか、どちらかで考えます。
強者の戦略
一方で、兵力数(経営資源)の多い企業は、第二法則の適用下にある総合的な戦いを行えば、圧勝できることも導き出されています。この戦い方は、ランチェスター戦略の強者の戦略と呼ばれています。
ランチェスター戦略の強者の戦略では、人数で勝負できるようにすることを目指します。つまり、弱者が取った差別化をなくすように、強者が弱者の武器効率(独自性、優位性)を真似して同等にし、兵力数(経営資源)を活かした総力戦に持ち込みます。強者の戦略は、ミート戦略(合わせる戦略)とも呼ばれ、弱者の差別化戦略、集中戦略を封じ込める意味があります。
また、市場シェアを判断基準にして弱者と強者を定義していますが、市場シェア1位であっても、2位との差がわずかしかない場合など、いつ逆転されてもおかしくない状況では強者の戦略に踏み切れない場合があります。尚、ランチェスター戦略では、市場シェアの目標値を上限目標値(73.9%)、安定目標値(41.7%)、下限目標値(26.1%)と定めています。そのため、まずは下限目標値(26.1%)を目指していきましょう。
※ランチェスター戦略におけるマーケットシェアの指標は以下のとおり
- 市場独占シェア(上限目標値)·····73.9%
- 市場独走シェア(安定目標値)·····41.7%
- 市場牽引シェア(下限目標値)·····26.1%
- 市場影響シェア·····11%
- 市場存在シェア·····7%
- 市場参入シェア·····3%
ランチェスター戦略の3つの結論
ここまで、ランチェスター戦略や元となるランチェスターの法則について説明してきました。ランチェスター戦略から導かれる指針は、以下の3つの結論に集約されます。
足下の敵を攻撃する
一つ目の結論は、足下の敵を攻撃することです。企業が売上・利益・シェアを上げるためには、競合との争いに勝ち、顧客を獲得しなければなりません。ランチェスター戦略では、狙うべきは市場シェアが一つ下の足下の敵である、としています。上位企業と戦っても、体力を消耗するわりに得るものが少なくなります。そのため、まずは下位企業を叩きます。
勝ちやすいということだけであれば、一つ下の足下の敵よりもっと下位の企業を叩いた方が勝ちやすいのですが、足下の敵のシェアをダウンさせることでその差が広がり、地位がより安定するという考え方から、足下の敵を攻撃することが、一番効率のいい戦い方だとされています。
ナンバーワン主義
二つ目の結論は、ナンバーワン主義です。ナンバーワン主義とは、ナンバーワンを目指すということです。実際に、一番と二番には大きな差があります。例えば、日本で一番高い山が富士山だということは皆知っていますが、二番目に高い山が北岳だということはあまり知られていません。これは、ビジネスでも同じです。ランチェスター戦略における強者とは市場シェア1位企業であり、弱者とは2位以下のすべての企業を指す所以でもあります。
ただし、市場シェア1位であっても、2位との差がわずかしかない場合、下位企業との激しい消耗戦が繰り広げられ、収益性が高まらない可能性があります。ランチェスター戦略では、市場シェア1位とは別に、2位との差を圧倒的に広げている市場シェア1位をナンバーワンと定義しています。
一点集中主義
三つ目の結論は、一点集中主義です。起業したばかりのスタートアップ企業や、始めたばかりの新規事業の場合、足下の敵がわからないこともあるでしょう。また、ナンバーワンを目指せと言われても、どのように目指したら良いのかわからないこともあると思います。
その場合には、自社が勝てる場所(もしくは、勝ちやすい場所)で戦うことを考えましょう。勝てる場所とはどこか、それは、市場の需要はあるが競合がいない場所、もしくは、市場の需要があり競合がいるが、強いプレイヤーが存在しない場所です。
十分な市場調査を行ったうえで、自社の限りある経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)が尽きる前に、必要な売上・利益・シェアを上げることができる場所を見つけましょう。その場所でナンバーワンを目指すのが、弱者の戦略です。これを一点集中主義といいます。
さいごに
いかがでしたでしょうか? ランチェスター戦略では、自社が置かれている市場シェアに応じて、効果的な経営戦略や営業戦略が異なることを伝えています。また、戦い方や戦う場所を工夫することによって、大きな市場シェアを占めている大企業に小さい企業が勝つことができる可能性を示しています。
ランチェスター戦略は、マーケティングでもキャンペーンやマーケティング戦略、マーケティング計画を書く上でも活用できますので、ぜひ、覚えておきましょう。
さいごになりますが、当社ではBtoBマーケティングの業務に役立つお役立ち資料を複数ご用意しております。マーケティングの基礎知識と実践方法を体系的にまとめたお役立ち資料などもご用意しておりますので、ご活用いただければ幸いです。