サンクコスト(埋没費用)とは、行動経済学や心理学でよく使われる用語で、既に支払ったコストに気をとられてしまい、合理的な判断ができなくなってしまう心理状態のことです。サンクコストは、ビジネス上の議論でも用いられることがあります。
本記事では、サンクコストの概要とその対策について解説します。
目次
サンクコスト(埋没費用)とは
サンクコスト(埋没費用)とは、「既に回収できないコスト」を意味します。また、投資(金銭、もしくは時間)を続けることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、「せっかくだから」「もったいないから」といった理由から投資がやめられない(合理的な判断ができなくなってしまう)心理状態のことを、サンクコスト効果と呼びます。
サンクコスト効果は、サンクコストの有名な例(超音速旅客機コンコルドの商業的失敗)にちなみ、別名でコンコルド効果とも呼ばれます。
サンクコストは回収できないコスト
サンクコストのサンク(Sunk)は、シンク(Sink)の過去形、つまり、既に沈んでしまった状態を指しています。また、サンクコストのコスト(cost)は、金銭的、もしくは時間的な費用を意味しています。つまり、サンクコストは回収できないコストです。そのため、合理的な意思決定をするためには、サンクコストは考慮に入れずに判断する必要があります。
しかし、投資を続けることが損失になることが明らかであっても、それまでの投資によって失った費用や労力を惜しんでしまい、投資を継続してしまうことがあります。このように、合理的な判断ができなくなっている心理状態がサンクコスト効果です。
特に、既に行った費用投資(金銭、もしくは時間)が大きければ大きいほど、サンクコスト化したときに取り返そうとする心理が働いてしまいます。「引くに引けない」といった心理状態になってしまい、合理的な判断が難しくなってしまいます。
サンクコストの有名な例:コンコルド事業
サンクコスト効果の有名な例として、超音速旅客機「コンコルド」事業があります。コンコルドは、パリとニューヨークを3時間以下で繋ぐという点を売りとして、1960年代にイギリスとフランスが共同で開発した超音速旅客機です。
コンコルドには巨額の生産費用がかかりましたが、250機生産すれば採算が取れるといわれていました。しかし、開発過程で乗員数が100名程度の見込みとなり、離着陸できる空港も限定されてしまうなど、採算ラインに乗せることが難しいことがわかり、注文キャンセルが相次ぎました。その結果、結局20機ほどしか生産されず、コンコルド事業は中止に至りました。
コンコルド事業の関係者は、比較的早いタイミングで「これ以上開発・生産を続けても駄目だ」と気付いていたようです。しかし、今まで費やした時間やコストを無駄にするわけにはいかず、結局、「引くに引けない」状態になってしまいました。その後の展開を考えれば、早めに撤退するべきだったといえます。
コンコルド事業は、サンクコスト効果の有名としてしばし取り上げられます。また、サンクコスト効果は、行動経済学では別名「コンコルド効果」とも呼ばれています。
身の回りにあるサンクコストの例
コンコルド事業の話は、大きなビジネスの話でもあるため、あまり身近に感じる話ではなかったかも知れません。ここからは、身の回りにあるサンクコストの例をご紹介します。
つまらない映画を観賞し続けるべきか
映画館に2時間の映画を見に行ったとします。チケットは1,800円。かなり期待していた映画だったのですが、残念ながら映画は全く面白くありません。映画を20分程鑑賞した時点で、このまま観続けるべきか、退出して別のことに時間を使うべきか、あなたは迷いはじめました。
『映画を観続けた場合:チケット代1,800円と上映時間の2時間の両方を失う。
映画を観るのを途中でやめた場合:チケット代1,800円と退出までの20分間は失うが、残った時間の1時間40分をより有効に使うことができる。』
この場合、チケット代1,800円とつまらない映画を鑑賞していた20分がサンクコストになります。
合理的に判断するためには、サンクコストを除外し、「今後この映画が面白くなる可能性」と「鑑賞を中断した場合に得られる1時間40分の可能性」の価値のみ比較する必要があります。しかし、多くの場合、1,800円を判断基準に含めてしまいがちです。
恋人と付き合い続けるべきか
付き合って5年の恋人がいるとします。あなたには結婚願望があり、年齢的にも3年以内には結婚したいと考えています。しかし、恋人は結婚願望がなく、3年以内の結婚を考えていないと言います。このまま恋人と付き合い続けるべきか、あなたは迷いはじめました。
『付き合い続けた場合:付き合ってからの5年と、3年以内の結婚の両方を失う。
付き合うのをやめた場合:付き合ってからの5年は失うが、残った3年を有効に使い、婚活することができる』
この場合、付き合ってからの5年がサンクコストになります。
合理的な判断であれば、時間を無駄にしないよう、恋人と別れるべきでしょう。しかし5年交際している間に使った時間や労力やお金を考えると、「5年も付き合っているし…」「相手の考えが変わるかもしれないし…」という心理が働き、別れることができない。これもサンクコスト効果によるものです。
サンクコストに囚われないための対策
サンクコストは、もう回収できないコストです。そのため、合理的に考えれば、意思決定を行う際には無視すべきコストです。しかしながら、意思決定の場では、「せっかく◯◯したのに」「あれだけの費用をかけたのに」と、サンクコスト効果に引っ張られてしまいがちです。
サンクコストに囚われないためには、意識的に対策をとる必要があります。本記事では、次のような対策をおすすめします。
第三者のアドバイスを聞く
サンクコストに囚われないためには、利害関係のない第三者のアドバイスを聞いてみるのがおすすめです。当事者、関係者の場合、サンクコスト効果に引っ張られ、どうしても合理的な判断が難しくなってしまいます。そのため、信頼できる第三者に相談し、アドバイスをもらうことが有効です。
利害関係のない第三者のアドバイスは、客観的、かつ、合理的であるケースが多いです。一人のアドバイスだけでは決心がつかないようであれば、複数人からアドバイスを求めることもおすすめです。
ただし、注意したい点があります。それは、耳障りの良いことばかりを言う人は避けることです。あなたのサンクコスト効果に引っ張られた意見に同調されてしまい、更なる深みにはまりかねません。十分に注意しましょう。
損切りする
次におすすめの対策は、損切りすることです。とはいえ、サンクコスト効果に引っ張られた状態だとなかなか損切りに踏み切れなくなってしまうので、事前に損切りのルールを決めておくと効果的です。
例えば、大掛かりな初期投資が必要な新規事業であっても、3年以内に黒字化しなければ撤退するとあらかじめ決めておく、といったことです。合理的に判断できる、と思っていても、人間なかなかそうはいかないものです。そのため、あらかじめ関係者間でルールを設定しておけば、ルールに基づいて判断でき、決断にエネルギーを使わずに済みます。
あらかじめ関係者間で設定した損切りの基準を満たさないように精一杯努力する、満たしてしまったら潔く撤退、そのくらいの方が関係者間でも納得し合えるものです。
さいごに
サンクコストは回収できません。「もったいない」「ここまでやったのにやめられない」と考え、合理的な判断ができなくなってしまう気持ちもわからなくはありません。しかし、過去の文脈や関係に縛られてしまうことで、「いま」本当に必要な意思決定ができず、後から振り返って後悔しても遅いのです。
人がサンクコスト効果に引っ張られるのは自然なことです。だからこそ、サンクコストの概要と対策について理解し、あなたにとって大切な局面での意思決定に活かしていきましょう。
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