PMF(プロダクトマーケットフィット)という言葉をご存知でしょうか?
スタートアップで働く人や新規事業に携わっている人、もしくはマーケティングや商品開発に携わっている人には馴染みのある言葉かもしれません。
本記事では、PMF(プロダクトマーケットフィット)の定義や検証方法、PMFを考える上での留意点についてご紹介します。
目次
PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?
PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、製品(product)、市場(market)、適合(fit)の頭文字とった言葉で、自社の商品やサービスが市場に適合している状態を表しています。
もう少しわかりやすく言えば「顧客を満足させるために最適なプロダクトを、最適な市場に提供できている状態」のことを指します。
PMF(プロダクトマーケットフィット)のコンセプトは、2000年代にアメリカの投資企業Wealthfront(ウェルスフロント)のアンディ・ラフレフによって提唱され、同じくアメリカのソフトウェア企業Netscape Communications(ネットスケープコミュニケーションズ)のマーク・アンドリーセンらによって広められたと言われています。
日本でも、2010年代の半ば頃にはスタートアップ界隈の新興企業を中心に用いられるようになり、新規事業をスケールさせるために必要な考え方や概念として認識されるようになってきました。
スタートアップの達成指標として重要視される理由
PMF(プロダクトマーケットフィット)は、日本、アメリカなど国を問わず、スタートアップの達成指標として重要視される傾向があります。
重要視される理由を理解するためには、スタートアップ界隈で用いられるスモールビジネスとスタートアップという言葉の定義の違いについても理解しておく必要があります。
スモールビジネスと言われる企業は「利益を着実に得ていき、堅実に成長するようにデザインされた企業」のことを指します。それに対し、スタートアップと言われる企業は「急成長するようにデザインされた企業」のことを指します。
(出典:note)
上記のグラフは、横軸に時間、縦軸に生み出す利益をとったグラフで、スモールビジネスとスタートアップの違いを示しているものです。
グラフのように、スモールビジネスは初期投資を抑えて利益を着実に得ていく一次関数モデルとなっているのに対して、スタートアップは初期から積極的に投資を行う慢性的な赤字状態から始まり、ある時期を境に爆発的に利益をあげていく指数関数モデルとなっています。
スモールビジネスとスタートアップ、それぞれに良し悪しがありますが、判断する人の立場によってどちらが好ましいと感じるかは異なるでしょう。とは言え、スタートアップ型の成長デザインを採用した企業の方が、急成長したときの利益も大きい分、投資に当てている経営資源を溶かしてしまうスピードも早くなります。
スタートアップの達成指標として重要視される理由とはつまり、経営資源が尽きてしまう前にPMF(プロダクトマーケットフィット)を達成しないと、そのスタートアップは倒産、もしくは事業撤退に追い込まれてしまうためです。
経営資源が尽きる前に黒字に転換し、その後も急成長を遂げるためには、PMF(プロダクトマーケットフィット)をいち早く達成し、経営資源を集中投下していき、競合が追随してくる前にシェアを拡大・確保しなければならないのです。
PSF(プロブレムソリューションフィット)との違い
PMF(プロダクトマーケットフィット)を達成するためには、その前の段階に当たるPSF(プロブレムソリューションフィット)についても理解し、それぞれの違いを理解しておかなければなりません。
PSF(プロブレムソリューションフィット)とは、問題(problem)、解決策(solution)、適合(fit)の頭文字とった言葉で、解決すべき問題を発見し、その問題の解決策が適合している状態を表しています。
もう少しわかりやすく言えば「解決に値する課題を発見し、その課題に対する最適な解決策を見つけ、その解決策に対して市場がお金を払うということが確認できている状態」のことを指します。
PSF(プロブレムソリューションフィット)を達成する上では、
- その問題は解決に値する問題か?
- その問題に対する最適な解決策は何か?
- その解決策にならお金を払ってもいいのか?
ということを自問自答してみることや、市場調査を行って実際の見込み客の声を確認してみることが大切です。
“市場調査(マーケティングリサーチ)については、別記事「マーケティングリサーチとは?実施するメリット、手法、手順について解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください”
PSF達成までのプロセス
PMFを達成するためには、まずはPSFの状態を経てからPMFを目指すことになります。まずは、以下の3つステップを実施し、PSFの状態になりましょう。
①解決すべき問題や課題の発見
②解決策の模索
③購買ニーズの確認
①解決すべき問題や課題の発見
一つ目のステップは、解決すべき問題や課題の発見です。このステップで注意しておきたいのは、それが「お金を払ってでも」解決したい課題なのか、そして「お金を払ってでも」実施したい解決策なのか、ということを見極める必要があるということです。
問題には大小があり、問題を解決したいと考える市場の要請にも大小があります。あくまで「お金を払ってでも」解決したいと望んでいる人が実際にいるということが重要です。市場調査を行い、該当する人がどのくらいいるのかを把握すると良いでしょう。
②解決策の模索
二つ目のステップは、解決策の模索です。このステップで注意しておきたいのは、その解決策は解決すべき問題や課題を本当に解決できるのか、という点です。また、その解決策は市場から理解や支持を得られるものなのか、実際に実現可能な方法なのか、自社の強みが活かせる方法なのか、といった部分についても確認しておきましょう。
③購買ニーズの確認
三つ目のステップは、購買ニーズの確認です。解決すべき問題や課題を抱えていると想定される見込み客層に対して導き出した解決策を提示してみて、実際に「お金を払ってでも」活用しようと思うのか、購買ニーズを確認していきます。
購買ニーズの見極めを誤ってしまうと、問題の解決のために適切な製品を作ったとしても、お金を払ってまで活用しようとは思わない(≒売れない)ということになりかねませんので注意が必要です。
また、実際にどのくらいの金額であれば見込み客が購買してくれるのか(適切な金額だと感じるのか)も調査しておきましょう。
PMF達成までのプロセス
PSFを達成したら、更に以下の3つステップを実施し、PMFを目指しましょう。
①MVP(実用最小限の製品:minimum viable product)の市場投入
②PMFの検証
③プロダクトの改善
①MVP(実用最小限の製品:minimum viable product)の市場投入
一つ目のステップは、MVP(実用最小限の製品:minimum viable product)の市場投入です。
MVPとは、エリック・リース氏によって書かれたリーンスタートアップ(Lean Startup)で提唱され、有名になった言葉で、市場に製品を提供する上で必要最小限の機能のみをもつシンプルな製品のことを指します。
(出典:crisp. )
PSF(プロブレムソリューションフィット)までのプロセスを経て導き出された解決策(ここでは、解決策としての自社プロダクトの素案)を基に、実用最小限のプロダクトを作成し市場投入してみましょう。
いきなり完璧な状態を目指しても時間がかかりますし、投下した経営資源に見合わないリターンしか回収できずに失敗する可能性も大きくなるためです。
まずはMVPを市場投入し、PMFに至るために必要な製品と作成した製品に相違がないか、早めに検証することを考えましょう。
②PMFの検証
二つ目のステップは、PMF(プロダクトマーケットフィット)の検証です。製品が市場にフィットした(もしくは、していない)と判断する方法については、さまざまな意見があるようです。
詳しい内容は次章で説明いたしますので割愛いたしますが、自社の事業や製品にあったベンチマークを見つけていただき、活用いただくのが良いと思います。
③プロダクトの改善
三つ目のステップは、プロダクトの改善ですMVPを利用した見込み客からのフィードバックを基に、プロダクトの改善を行うサイクルを繰り返していくことで、製品を完璧な状態に仕上げていきます。
いきなり完璧な状態まで作り上げてから市場に投入しようとする必要はありませんし、いきなり完璧な状態まで作り上げることは、実際のところかなり難しいと言えます。そのため、MVPを利用した見込み客からの実際の声を基として、プロダクトの改善を継続的に行っていくことが大切になります。
改善プロセスを回すためには、PDCAサイクルやOODAループといったフレームワークを活用するもの良いでしょう。
PMFの検証方法
ここからは、PMFの検証方法として紹介されることが多い何種類かのベンチマークについてご紹介していきます。本記事では、検証の方法を4つご紹介します。
様々な角度から検証を行ってから、経営資源を投下するスケール期(拡大期)に入っていくようにしましょう。PMFが達成できているか十分に検証しないままに経営資源を投下し過ぎてしまうと、そのスタートアップが倒産、もしくは事業撤退に追い込まれてしまう可能性が高まるためです。
アンケート調査(Product/Market Fit Survey)
一つ目の検証方法は、アンケート調査を活用して検証する方法です。
製品を利用したことがある人に対し「プロダクトが使えなくなったらどう思いますか?」という質問を行い(「非常に残念」「やや残念」「残念ではない」「該当しない」の4つの回答を準備)、40%以上の人が「非常に残念」を選択した場合にはPMFの状態に達成していると判断します。
シンプルで実施しやすいのが、この方法の良いところです。
ただし、アンケート調査は対象となる母集団の違いによって回答結果に差が生まれやすいため、自分達にとって都合の良い回答結果に誘導しないよう注意が必要です。
NPS(ネットプロモータースコア)
二つ目の検証方法は、NPS(ネットプロモータースコア)を活用して検証する方法です。
NPSは「この企業(プロダクト)を友人や同僚に薦める可能性がどの程度ありますか?」という質問に対して、0~10の11段階で回答してもらうものになります(0~6を批判者、7~8を中立者、9~10を推奨者と判断します)。推奨者(9~10)の割合から批判者(0~6)の割合を引いた数値がNPSのスコアになります。
NPSのスコアを活用してPMFを検証する場合、アメリカではNPSのスコアが40点以上であればPMFの状態に達成していると判断できるとされています。
ただし、日本の場合には回答が中立者(7~8)による傾向があり、業界トップの企業や評価の高い企業でもNPSスコアが40点以上を超えることが少ないのが現状です。そのため、PMFの検証に活用する場合には、他の指標と組み合わせて活用することをおすすめします。
リテンションカーブ
三つ目の検証方法は、リテンションカーブを作成して検証する方法です。
リテンションカーブとは、縦軸に顧客のリテンション(継続)率、横軸に利用期間が設定されたグラフです。このリテンションカーブを作成すると、プロダクトの使用期間が経過しても継続し続ける顧客層を見極めることができます。
ほとんどの場合、プロダクト投入後の一定期間はリテンション率が低下していきます。つまり、PMFしていない顧客はどんどん離脱していきます。ただし、離脱する顧客がいなくなり、継続しつづける顧客だけが残ってくれば、リテンションカーブのグラフ数値は横ばいになります。
この、グラフが横ばいの状態になったときに利用し続けている一定の顧客層は、プロダクトに満足している、つまりPMFに至っている層であると判断できるのです。
(画像引用:いちばんやさしいグロースハックの教本)
ただし、プロダクトの特性や価格によっては、解約してはいないだけで実際には利用していないケース(連絡したら、思い出したように解約されてしまうようなケース)もあります。そのため、PMFの検証に活用する場合には、対象がしっかりと利用し続けていることを確認することや、利用し続けてくれている理由(プロダクトに満足しているポイント)をしっかりと確認するようにしましょう。
受注率×LTVから検証
四つ目の検証方法は、受注率×LTVから検証する方法です。
MVP(実用最小限の製品:minimum viable product)を市場投入してすぐにテストマーケティングを行う場合、もしくは市場投入してから一定期間経過した後にPMFしているか検証する場合、アプローチした見込み客層の中から受注率の高く、かつLTV(顧客生涯価値)が高いセグメントがどこかを検証します。
受注率×LTVが高いということは、プロダクトに価値を感じてお金を払い、そして実際に満足して使い続けている、つまりPMFに至っている層であると判断できるのです。受注率×LTVからPMFを検証する方法は、アンケートやNPSなどに比べると結果に揺らぎが少なく、より実践的な方法であると言えます。
ただし、受注率×LTVが高い層を見極めるためには、PMFを達成する前から顧客情報を適切に入力し、分析できるようにデータを管理しておかなければなりません。そのため、早いタイミングから顧客管理システムの導入を検討しておくことをおすすめします。
PMFを考える上でのコツ・留意点
PMFを考える上でのコツ・留意点についてもご紹介します。
PSFとPMFは異なる
一つ目のコツ・留意点は、PSFとPMFは異なるということです。
PMFという言葉はスタートアップ界隈、そしてマーケティング用語としてもかなり定着してきたと感じていますが、それでもPSFとPMFを混同してしまっている人が多いと感じます。
少しわかりづらいかもしれませんが、
PSFを達成した状態 ≒ 商談発生率が高いセグメントが特定できている状態
PMFを達成した状態 ≒ 受注率が高くLTVが高いセグメントが特定できている状態
とも言い換えることができます。
PSFを達成して効率的に商談を生み出せるようになったとしても、PMFを達成して高い確率で受注でき、かつ受注した顧客が長い期間継続して利用するかといえば、それは全く違う話になるのです。PMFに至るためにどのようなプロダクトを作る必要があるかは、ターゲット市場の特性や、競合製品の有無、代替製品の有無なども大きく関わってきます。
そのため、PSFを達成しただけの状態をPMFの達成と勘違いしてしまうと、確かに引き合いはあるものの、投資家が期待するような急成長を行うことが難しくなる、そればかりか十分な利益を確保できずに撤退を余儀なくされてしまう可能性もあります。
PSFの状態を経てからPMFを目指すことになりますが、PSFとPMFの違いをしっかりと認識しておくようにしましょう。
PMFは一回では終わらない
二つ目のコツ・留意点は、PMFは一回では終わらないということです。
PMFが達成できたとしましょう。しかし、市場は常に変化しているため、競合他社がより良いプロダクトを市場に投下してくる可能性もあります。また、業界外から代替品が登場する可能性もあります。
あなたがプロダクトの売り手側で、市場に対して変わらない価値を提供していると思っていたとします。しかし、市場が変化しているとしたら、買い手側から見た際のあなたのプロダクトのブランディングやポジショニングに対する評価は、市場が変化する前と大きく異なる可能性があります。
そのため、PMFは一回では終りません。一度PMFのタイミングに達してからも、市場の変化に合わせてプロダクトを改善し続け、PMFさせ続ける必要があるのです。
一度達成したPMFが通用しなくなるまでの変化の波が来るまでの期間は、そのプロダクトの特性やプロダクトのターゲットによってもばらつきがでます。しかし、変化の早いIT業界や新機能追加やアップデートを行い続ける必要があるSaaS型のプロダクトであれば、その波はすぐに訪れる可能性が高いです。
スタートアップ型の企業が急成長するようにデザインされる理由も、自社プロダクトがPMFを達成してから競合製品の登場などによって市場が変化する前にポジショニングを確立してしまいたい、できれば市場を独占してしまいたい、ということなのでしょう。
PMFは一回では終わらない、常にPMFは意識が欠かせないということを覚えておきましょう。
さいごに
本記事では、PMF(プロダクトマーケットフィット)の概要や検証方法、考える上でのコツ・留意点をご紹介いたしました。
実際のところは、PMFを達成することも、そして市場の変化に合わせてPMFを変化させ続けることも、狙ったからといってなかなか実現が難しい、というのが正直なところです。
しかし、PMF(プロダクトマーケットフィット)の概要や検証方法を事業に取り入れ、起業家の勘や嗅覚に依存する部分をできるだけ排除し、市場の反応を確認しながらプロダクト開発(事業開発)を進めていけば、事業が成功する可能性は確実に高まっていくでしょう。
購入可能性が高く、かつ継続利用が見込める可能性が高い市場を特定した上で経営資源(ヒト・モノ・カネ・時間)を投下することができれば、大きなリターン(利益)を産むようになるはずです。
さいごになりますが、当社ではBtoBマーケティングの業務に役立つお役立ち資料を複数ご用意しております。マーケティングの基礎知識と実践方法を体系的にまとめたお役立ち資料などもご用意しておりますので、ご活用いただければ幸いです。