見込み客を表すマーケティング用語に、プロスペクト・サスペクト・リードがあります。
プロスペクト・サスペクト・リードは、ほとんどの場合、3つの全てが見込み客と日本語に訳されて活用されています。しかし、この3つの用語、厳密には意味のニュアンスが異なります。
マーケティングや営業が活用する顧客管理ツール(MA・SFA・CRM)においても、見込み客をリードと表記する場合やプロスペクトやサスペクトと表記する場合、あるいは、複数の表記が混在する場合があります(その他にも、コンタクトやリストと表記する場合もあります)。
そのため、3つのマーケティング用語のニュアンスの違いを把握しておかないと、マーケティングや営業の実務上でも混乱を招いてしまう可能性があります(私も、以前は各用語の意味の違いが分からずによく混乱していました)。
本記事では、見込み客を表すプロスペクト・サスペクト・リード、3つのマーケティング用語の意味と違いについてわかりやすく解説します。
目次
プロスペクト・サスペクト・リードとは
プロスペクト・サスペクト・リードとは、それぞれが見込み客を表すマーケティング用語です。ですが、前述したとおり厳密には意味のニュアンスが異なります。
各用語の意味とニュアンスについて、順番に解説します。
プロスペクトの意味
プロスペクト(prospect)は、日本語に直訳すると「(望ましいことが起きる)見込み、(将来の)見通し、展望、期待、将来」という意味になります。
サスペクトやリードと同様、見込み客を表す言葉として用いられますが、見込み客の中でも「製品やサービスの購入が期待できる見込み客」を表す際に用いられます。
つまり、プロスペクトとは「今、アプローチすべき見込み客」のことです。
実務上においては、マーケティング部門による選別や営業部門による選別をクリアした見込み客をプロスペクトと呼ぶことが多いです。
サスペクトの意味
サスペクト(suspect)は、日本語に直訳すると「容疑者、被疑者、嫌疑者、~ではないかと疑う(うすうす感じる)、~だろうと思う」という意味になります。
プロスペクトやリードと同様、見込み客を表す言葉として用いられますが、見込み客の中でも「製品やサービスを購入するかは判断できないが、その可能性はある見込み客」を表す際に用いられます。
つまり、サスペクトとは「ニーズが顕在化していない(潜在的な)見込み客」のことです。
実務上においては、明らかな対象外として除外されてはいないが、個別アプローチの対象とはならず、マーケティング部門や営業部門によって育成されている状態の見込み客をサスペクトと呼ぶことが多いです。
リードの意味
リード(lead)は、日本語に直訳すると「案内する、導く、つながる、糸口、手掛かり」という意味になります。
プロスペクトやサスペクトと同様、見込み客を表す言葉として用いられますが、プロスペクトやサスペクトとは違い、製品やサービスを購入する可能性の高低にかかわらず「全ての見込み客」を表す際に用いられます。
つまり、リードとは「アプローチ可能な(情報を保有している)全ての見込み客」のことです。
プロスペクト・サスペクト・リードの違い
プロスペクト・サスペクト・リードをパイプライン上に示すと、次にようになります。
プロスペクトとサスペクトの違いは「直ぐに商談や受注につながる可能性があるか否か」、リードはプロスペクトやサスペクトを含む「アプローチ可能な(情報を保有している)全ての見込み客」のことを指します。
リードは見込み客全体のことを指すにも関わらず、更にプロスペクトやサスペクトに見込み客を分ける理由は、見込みの高低に合わせて適切なアプローチ方法を検討し、効率的に商談を生み出すためです。
特定の期間内に多くの売上をあげる必要がある場合、プロスペクトの段階にいる見込み客にアプローチするのとサスペクトの段階にいる見込み客にアプローチするのでは、前者にアプローチを絞った方が具体的な商談につながりやすく、多くの売上をあげることができる可能性が高くなります。
マーケティングや営業の活動において、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・時間)で最大の付加価値をあげるためには、「今、アプローチすべき見込み客」に集中してアプローチを行うことが大切です。
プロスペクトやサスペクトに見込み客を分けることによって、プロスペクトと認定された見込み客に対しては受注につなげるためのアプローチを行い、サスペクトの見込み客にはプロスペクトにするための取り組み(プロスペディング)を行う、といったように、見込み客に対する次のアクションにも迷わなくなります。
参考:プロスペクトとプロスペクト理論の違い
プロスペクトとよく似たマーケティング用語に、プロスペクト理論があります。
プロスペクト理論は、1979年に心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱された行動経済学の理論です。リスクを伴う状況下において、人がどのような意思決定を行うのかが分析されています。
プロスペクト理論では、人がリスクを伴う状況下において意思決定を行う場合、以下の3つの心理傾向が見られるということを説明しています。
・人は得することよりも損することを過大評価する
・人は得している場面では安定志向、損している場面ではリスク志向になる
・利益や損失の金額が大きくなるほど、価値の変動は小さくなる
プロスペクト理論も、マーケティングにおいては利用される理論であり用語です。参考までに、プロスペクト理論を応用したマーケティング手法としては、以下の手法があります。
・無料・割引キャンペーン
・期間限定・人数限定
・優遇情報
・ポイント付与
・返金保証・修理保証
このように、プロスペクトとプロスペクト理論は、どちらもマーケティングで活用されていますが、見込み客を表すプロスペクトと行動心理学のプロスペクト理論には、全く関係性がありません。
用語としてはとても似ているため混同してしまいがちですが、プロスペクトとプロスペクト理論は別物だということを覚えておきましょう。
プロスペクトを増やすための5つの活動
上記までの説明で、プロスペクト・サスペクト・リードの違いや、リードを更にプロスペクトやサスペクトに分ける理由は効率的に商談を生み出すためであることについてご理解いただけたと思います。
そして、効率的に商談数を増やし、受注数を増やすためには、プロスペクトを増やすことが大切だということも、ご理解いただけたのではないでしょうか。
プロスペクトを増やすためには、リードを獲得・管理・育成・選別し、商談に促すための仕組みをつくる必要があります。
製品やサービスの良さ(利用メリット)を知ってもらい、興味や関心を集め、必要になったときに声をかけてもらえるようにする(プロスペクトに引き上げる)というのが基本的な考え方です。
本章では、プロスペクトを増やすための5つの活動(リードの獲得・管理・育成・選別・商談のプロセス)の全体像について説明します。
順番に見ていきましょう。
本章で説明するプロスペクトを増やすための5つの活動は、別記事「BtoBマーケティングとは?BtoBマーケティングの基本型と実践するための手順」でも同様の内容を詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
リード獲得
プロスペクトの数を増やすための活動の一つ目は、リード獲得(リードジェネレーション)です。
獲得したリードの評価がプロスペクトであれサスペクトであれ、プロスペクトの数を増やすためには、まずはリード全体の獲得数を増やすことが大切になります。
プロスペクト、サスペクトに関わらず、まずは将来的には顧客になる可能性のある見込み客、つまりリード全体の数を増やすことができれば、プロスペクトと評価できる見込み客の数も増える可能性が高くなります。
リード獲得の手法に関しては、別記事「リードジェネレーションとは?リードを獲得するための代表的な手法まとめ」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
リード獲得を効率的に行うためには、あらかじめ誰に・何を・いつ・どのように伝え、どのような反応を引き出したいのか整理しておくことが大切です。情報を整理する際には、ペルソナやバイヤージャーニーを作成してみるのもオススメです。
リード管理
プロスペクトの数を増やすための活動の二つ目は、リード管理(リードマネジメント)です。
リード管理とは、リード情報を記録し分析や施策に活用できるように管理することを指します。見込み客を最適な形でフォローするためにも、とても重要になります。
リード管理を行う際には、見込み客の置かれている状況を判断するために必要な情報を記録・管理できるようにしておく、という考え方が大切です。
獲得したリードが既にプロスペクトと判断できる場合には、すぐに商談のプロセスに回しましょう。まだサスペクトの場合には、後述するリード育成のプロセスに回し、プロスペクトに引き上げるためのアプローチを行いましょう。
見込み客の基本情報(企業情報や担当者情報)や過去のやり取りの履歴の他にも、BANT-CH条件や、行動履歴から算出されるスコアなども記録し、分析や施策に活用できるようにしておくと、プロスペクトに引き上げるためのアプローチが行いやすいと思います。
リード管理に関しては、別記事「リード管理が必要な理由とは?リード管理が果たす役割や成功させるポイントについて解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
リード育成
プロスペクトの数を増やすための活動の三つ目は、リード育成(リードナーチャリング)です。
リード育成とは、購買意欲を高めるための取り組みのことです。サスペクトに対して、プロスペクトに引き上げるためのコミュニケーションを取っていきます。
前述したとおり、製品やサービスの良さ(利用メリット)を知ってもらい、興味や関心を集め、必要になったときに声をかけてもらえるようにする(プロスペクトに引き上げる)というのがリード育成の基本的な考え方です。
必要になったときに声をかけてもらえるようにする(プロスペクトに引き上げる)ためには、メルマガなどで顧客接点を担保しておくことが大切ですが、一方的なコミュニケーションだけではなく、双方向的なコミュニケーションも織り交ぜていくことも有効です。
例えば、インサイドセールスを活用して見込み客と直接対話を行うような1対1の取り組みや、ウェビナーやホワイトペーパーを配ってダウンロード時にアンケートを回収するような1対Nの取り組みなどがあります。
1対1のコミュニケーションでは、得られる情報の質は良くなる可能性が高いですが、反面、大人数とのコミュニケーションには向きません。
同様に、ウェビナーやホワイトペーパーの配布のような1対Nのコミュニケーションでは、一人ひとりから得られる情報の質は担保が難しいですが、反面、大人数とのコミュニケーションが容易になります。
上記を意識しながら、見込み度別にアプローチ方法を変えてみることも、リード育成のプロセスから多くのサスペクトをプロスペクトに引き上げるためには大切になります。
リード育成に関しては、別記事「リードナーチャリングとは?実施するメリットと設計する手順をわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
リード選別
プロスペクトの数を増やすための活動の四つ目は、リード選別(リードクオリフィケーション)です。
リード選別(リードクオリフィケーション)とは、リードとクオリフィケーション(適性)を掛け合わたマーケティング用語です。リードの中から営業部門に引き継ぐ見込み客、つまりプロスペクトを選別するためのプロセスを指します。
一人当たりの営業担当者が一定期間内にアプローチできる見込み客の数には限りがありますが、リード選別を行い、プロスペクト(今、アプローチすべき見込み客)のみを営業部門にパスすることができれば、一人当たりの営業担当者が実施する商談数を増やし、受注数を増やすことが可能になります。
また、リード選別の仕組みを整備し、見込み客をプロスペクトと評価する基準が明確になることは、マーケティング⇄営業の間のリード引渡しのオペレーションの整備にも繋がります。その結果、業務の省力化や自動化も検討できるようになります。
リード選別の仕組みは、リード獲得のタイミングとリード育成のタイミングの2つのポイントで構築ことが大切です。
プロスペクトだと評価・選別できた場合、すぐに具体的な商談を開始できるように営業部門に引き継ぐことができなければ、大切な商談機会を失ってしまいます。
リード選別の方法としては、以下の方法があります。
・ヒアリングによって見極める方法
・スコアリングによって見極める方法
・アンケートによって見極める方法
・コンテンツによって見極める方法
リード選別の方法の詳細に関しましては、以下の記事にまとめております。
リード選別に関しては、別記事「リードクオリフィケーションとは?具体的な方法を事例付きでわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
商談
プロスペクトの数を増やすための活動の五つ目は、商談(提案・クロージング)です。
プロスペクトを増やすという点で言えば、リード獲得〜リード選別のプロセスでほとんど完了しています。
しかし、プロスペクトと評価して商談につなげたとしても、仮に受注率が高くなければ「それってプロスペクトの基準が悪いのでは?」という議論につながり、結果としてマーケティング部門と営業部門の軋轢につながり兼ねません。
マーケティング部門が商談につながりやすいリードをプロスペクトと評価して営業部門に供給したとしても、残念ながら、適切な営業活動なしに受注は生まれません。
そのため、商談(提案・クロージング)が適切に実施されていない場合、プロスペクトの評価基準がどんどん高くなり、結果としてプロスペクトの数は少なくなってしまう可能性があります。
適切な営業活動をしているにも関わらず、それでも受注率が低い場合には、マーケティング活動の見直しや、必要に応じてプロダクト自体の見直しを検討した方が良いでしょう。
また、商談(営業アプローチ)の事前準備の際には、フォーム項目から確認できるBANT条件、Webアクセス履歴やメールの反応から相手のインサイトを確認し、契約成立までのストーリーを組み立てることができるように仕組みを整えておくと、アプローチの効率が上がります。
適切な営業活動とは何か、に関しては、別記事「法人営業とは?法人営業の5つの実践ステップについてわかりやすく解説します」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
参考:プロスペクティングとは
プロスペクトを創出するための取り組みのことを、プロスペクティングと呼ぶことがあります。
プロスペクティングは、本章でご紹介したプロスペクトを増やすための5つの活動の全てを指す用語として活用されることもあれば、サスペクトをプロスペクトに引き上げるためプロセス(リードナーチャリング)を指す用語として活用されることもあります。
また、テレマーケティングの業界では、架電アプローチからアポイントを獲得することをプロスペクティングと呼ぶこともあります。
そもそも、プロスペクトの基準(今、アプローチすべき見込み客の基準)に明確な定義はなく、企業の考え方や業種・業態によって適切な基準は異なるため、プロスペクティングについても、明確な定義がないのは仕方のないことです。
とはいえ、プロスペクトという用語が活用される職場で働く場合、プロスペクティングという用語に触れる機会も多くなりますので、プロスペクトを創出するための取り組みのことをプロスペクティングと呼ぶということは覚えておきましょう。
見込み客を管理する際のコツ・留意点
見込み客を管理する際のコツ・留意点についてもポイントを紹介します。
パイプラインを整備する
一つ目のポイントは、マーケティングと営業のパイプラインを整備することです。BtoBマーケティングにおけるパイプラインとは、マーケティングや営業における各プロセスのことを指します。
また、パイプライン管理とは、可視化し、管理・分析しながら改善を図っていくためのマネジメント手法の事を指します。
サスペクトをプロスペクトに促していくための仕組みを構築し、マーケティングや営業を効率化するためには、パイプライン管理を実践することが大切になります。
基準を明確にする(曖昧にしない)
二つ目のポイントは、プロスペクト・サスペクトの基準を明確にする(曖昧にしない)ことです。
プロスペクト・サスペクトの基準が曖昧なままだと、マーケティング⇄営業の間のリード引渡しの業務オペレーションの整備が難しく、省力化や自動化を検討することが難しくなります。
また、プロスペクト・サスペクトの基準が曖昧なままだと、どのようにフォローすべきかが定まらず、結果としてフォロー漏れが発生する要因にもなります。
プロスペクト・サスペクトの基準に明確な定義はありません。そのため、自社のマーケティングや営業を効率的に行うためにはプロスペクトの基準を「決める」ことが大切です。
プロスペクトの基準が決まれば、サスペクトの基準も決まります。
見込み度別にアプローチ方法を変える
三つ目のポイントは、見込み度別にアプローチ方法を変えることです。
プロスペクトと判断できる場合にはすぐに商談のプロセスに回し、受注につなげるための提案・クロージング活動を行うことが大切です。
しかし、まだサスペクトの場合には、いきなり商談のプロセスに回そうとしても相手に嫌がられてしまい、結果として良好な関係を構築する前に嫌われてしまう、あるいは連絡が取れなくなってしまう可能性があります。
そのため、サスペクトの場合にはリード育成のプロセスに回し、プロスペクトに引き上げるためのアプローチを行いましょう。
このように、見込み度別にアプローチ方法を変えることが大切です。
参考:パイプラインの設計事例
パイプラインの設計事例についてもご紹介します。
商談を生み出すためのパイプラインの設計し、データ基盤を整備し、顧客の求める情報(コンテンツ)を準備することができれば、少人数でもマーケティングと営業のパイプラインを運用できるようになります。
以下の記事では、実際に当社が行っているマーケティング・営業のパイプライン(2022年度時点)をご紹介しています。
マーケティングも営業も一人で行っている企業の事例として、経営資源が限られていても、なんとか事業を成長させたい、そのようなお悩みをお持ちの方の役に立つことができれば嬉しいです。
パイプラインの設計事例に関しては、別記事「少人数でも運用を回せる、商談を生み出すためのパイプライン管理の設計事例」に詳しくまとめております。合わせてご覧ください。
さいごに
プロスペクト・サスペクト・リードの意味の違いを理解し、プロスペクトの数を安定的に増やしていく為の仕組みを整備することができれば、マーケティングや営業の効率は間違いなく上がり、受注数も増えていくでしょう。
さいごになりますが、当社ではBtoBマーケティングの業務に役立つお役立ち資料を複数ご用意しております。マーケティングの基礎知識と実践方法を体系的にまとめたお役立ち資料などもご用意しておりますので、ご活用いただければ幸いです。